西村有未個展「図形的登場人物と雪娘 シーズン2」FINCH ARTS

西村有未個展「図形的登場人物と雪娘 シーズン2」FINCH ARTS

名称:西村有未個展「図形的登場人物と雪娘 シーズン2」FINCH ARTS
会期:2022年 1月14日(金)- 2月13日(日) 
開館時間:13:00-19:00
会期中:金土日開廊
住所:〒606-8412 京都府京都市左京区浄土寺馬場町1-3
TEL:(0)80 1351 9467
URL:FINCH ARTS 

物質(マチエール)と物語を拮抗させることで、絵画の可能性を探しています。
そして、この目的と親和性の高い題材として扱っているのが、「図形的登場人物」です。「図形的登場人物」とは何か。それは昔話において、語り部が話の筋を優先するために、個人としての描写―例えば感情や身体表現を無視もしくは省かれた登場人物を指しています。
私は、この省略(行間)の中にある沈黙を手綱もしくは燃料とし、そこから生まれたイメージと絵具をぶつけ、緊張状態を作ることを試みています。
これは、そもそも私が物語の挿絵を描きたいわけではなく、物語から出発した具象的なイメージと、密度と色の濃い物質をぶつけ合わすことで「強烈にはっきりとしているのに、どこか曖昧で抽象的」な態度の作品を目指しているからなのです。
ちなみに、「図形的登場人物」の名付け親は、民間伝承文学の研究者マックス・リュティという方です。知り得たきっかけは、野村 泫氏の「昔話は残酷か」( 東京子ども図書館、1997年)という本との出会いでした。私の解釈によれば、野村氏はリュティ氏の考えを引用しがら、昔話には一見恐ろしい場面が散見されるが、そこでは様々な具体的描写が省かれるため、実際にはそこまで残酷なものではないという主張をしています。
一方で、図形的登場人物を生む構造には、個人を置いてきぼりにして物事を勝手に進める、現実世界にまさにある残酷さや不条理に近いものが端的に表現されている、とも考えられます。多くの人は10代の頃に、現実的な残酷さや不条理を明確に認識し、時に深い何かしらの感情を抱くこともあったのではないでしょうか。私もまた、その1人でした。大人になった現在でも、同じような経験をするものの、やはり10代の頃のそれは特別なものです。そして、当時の経験が残した禍根が共鳴するかのように、「現実的な残酷さや不条理」を物語として抽象化しているような構造と、そこから生まれ出る「図形的登場人物」の存在に強く関心があります。
こうして抱いた共鳴に加えて、どこからか湧き出る強いモチベーションや、ある種ポジティブな姿勢で取り組むという欲求が折り重なったうえで、今の私の制作があります。
以上のことから、ロシアの昔話「雪娘」を題材として、2019年より描き始めたのでした。物語の最終場面において雪娘は焚火を越え、溶け消えてしまいます。しかし、溶けていく彼女の身体の様子や、感情表現は一切語られておらず、最後にただ「湯げは、ほそい雲になって、ほかの雲をおいかけながら、上へ上へと、のぼっていきました。」(『ロシアの昔話≪愛蔵版≫』、 内田莉莎子訳、福音館書店、1989年、p.133)と、ここでは描写するのみです。そうして、物語は終わってしまいます。
2019年にはおそるおそる描き始め、2020年以降はコロナ禍という今まで味わったことのない空気感のもとで、私生活も制作生活も揺り動かされながら、表現の幅を広げてきました。そして、描き進めていくうちにその振幅の中で、私の「雪娘」はまた違う何かになりつつある、という実感があります。
ということもあって、(突然ですが)ついに来ましたシーズン2。
このシーズンの作品がどのようなものなのか、冬の京都でじっくり眺めて考えてみたいと思っています。(西村)

西村有未
1989年東京都生まれ。2019年京都市立芸術大学大学院美術研究科博士(後期)課程美術専攻研究領域(油画)修了。近年の主な展覧会に、「絵画の見かたreprise」 √K Contemporary(東京/2021)、個展「図形的登場人物(雪娘)と望春の花 」FINCH ARTS(京都/2020)、「PIE314 FOR MAKE WORKS」ON MAY FOURTH(東京/2019)、個展「描き続け 為に(物語から絵肌へ、絵肌から物語へ。その繰り返し)」神奈川県立相模湖交流センター(神奈川/2018) 「第3回CAF賞入選作品展」3331 Arts Chiyoda(東京/2016)、個展「From light houses vol.1 yumi nishimura」MOONDUST(東京/2016)、「TWS-Emerging 2013:例えば祖父まで、もしくは私まで。こんもり出現」TWS本郷(東京/2013)など。

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