「In search of others」KOTARO NUKAGA

「In search of others」KOTARO NUKAGA

名称:「In search of others」KOTARO NUKAGA
会期:2022年5月14日(土)~2022年6月25日(土)
開館時間:11:00 〜 18:00
休館日:月曜、日曜、祝日
入場料:無料
会場:KOTARO NUKAGA
住所:〒140-0002 東京都品川区東品川1-33-10 TERRADA Art Complex 3F
TEL:03-6433-1247​
URL:KOTARO NUKAGA 

KOTARO NUKAGAでは、5月14日(土)から6月25日(土)まで、グループ展“In search of others”を開催します。本展は平子雄一がキュレーションをする初のグループ展となり、「他者」として存在するヒトをテーマに、国内外から平子を含む、伊佐治雄悟、王冠蓁、熊野海、高橋直宏、陳雲、寺本明志、という7名のアーティストが参加します。
存在する全てのものが彫刻に見えてきたと言う伊佐治雄悟は、主に可塑性のあるプラスティック製品を素材として、人間の顔のようなモデルや丸く膨張させたボトルなどのファウンド・オブジェを制作し、無機質な日用品に内在する生命感を感じさせます。王冠蓁はペインティングと陶器の二つのジャンルを横断し、無邪気さと奇妙性を兼ね備えた人物像や、切り取った身体を形にした陶器を制作することで、感情が溢れた人間と「非個性」な器物の間の境界にアプローチします。一方、熊野海は壮大な光景を映す作品を展開しています。彼のペインティングは、鮮やかな色彩を用い、煙が溢れた現代社会の闇の中に、カオスと共に暮らしている人間社会を描き出します。また、高橋直宏が主に制作している人体の木彫は、身体が断片的に繋がれたり、糸繰り人形のようであったり、各部位を不自然に組み合わせ、異形を表現することによって、物理的な制約の下に人間をどう考察していくか問いかけます。記憶の具現化を表現のテーマとする陳雲は、2〜3枚のパネルを組み合わせることによるモンタージュ的な手法を用い、抽象と具象を同時に提示することで、日常的に目にするモダンスタイルの人物をリリカルな映画のようなシーンに登場させます。そして、寺本明志の絵画は、日常のモチーフを異なる空間に配置することで、非日常な景色を作り出します。鑑賞者を自然態と違和感の間に行き来させ、我々が生きている環境にあるさまざまな要素(人間を含む)の関係性を再考する必要を提示してくれます。
この展覧会において、アーティストたちは作品それ自体や作品の中に様々な「他者」を作り出します。広義な意味で「他者」を捉えた場合、「他者」とは単に「他人」を意味するものではありません。「私」という主体に対する世界という意味での客体や、アーティストのメッセージを代弁し伝える「ヒト」も鑑賞者にとってはある意味での「他者」となります。フランスの哲学者エマニュエル・レヴィナスは、「他者」とは「理解されえない、つまり包括されることが不可能なものである」としています。しかし一方で、理解しえない「他者」の生み出すノイズは私たちを今いる閉じた環世界から外の世界へと目を向けさせるものであり、その意味において「他者」は「私」を自己完結の孤独から救い出す「可能性そのもの」であるとも言えるのです。
例えば、平子は近代以降綿々と続く、自然と人間との間にある主客二元論的な関係の歪さを伝えるために、頭部が樹木の形をした人型の登場人物(以下「樹人間」)を創り、気になる「他者」として、人の意識を自然との関係性へ誘います。「樹人間」は平子がロンドン留学時に都市部の公園などの木々を見てそれを人々が自然として向き合っていること、さらに言えば「自然の良し悪しを選別し、人工的に植物世界を作り、それに満足をする」人間へのある種の違和感から生まれてきた「他者」です。とりまく世界のすべてをコントロールし、自然の生態系を変化、搾取することで私たち人類は資本主義を支えてきた側面を持ちます。しかし、そうやって人間中心的嗜好によって進められてきた産業化による自然への影響は「人新世(アントロポセン)」と呼ばれる地質年代にも現れるように、環境問題は近代的な人間中心主義の視点だけではもはや解決できないところまで差し迫った問題となってきているという見方もされています。
私たち人間は自然世界を「他者」として私たち自身をそこから切り離すようにして「自己」を認識してきました。主体たる私たちは世界である「他者」を客体として従属させるようにして距離をとってしまったために「他者」である世界の声が聞こえなくなってしまっています。未だにその全貌や解決策の見えない新型コロナウイルスの登場はまさにこの声の聞けない「他者」であるとも言えます。平子の描き出す「他者」である「樹人間」も声を発して何かを語ることはありません。しかし、「樹人間」が「他者」として私たちの前に姿を現わすことには意味があります。彼らの声に耳を傾けてみてください。心を開き、彼らに向き合うこと、つまり世界へ参与することで彼らは言葉ではない何かを伝えてくれるかもしれません。それは平子の思いであるかもしれませんが、平子を通して何かを伝えようとしている「他者」である世界の声であるともいえます。
近年コロナ禍においてますます加速したオンラインメディアやSNSを通して行う「他者」とのコミュニケーションの日々は、私たち自身のいる世界が小さな環世界であることを自覚させました。そして、環世界の外の出来事の全て、パンデミックや戦争、オリンピックなどすべての現実から手触りのあるリアリティを奪い去りました。かつての日常では、例えば駅ですれ違うだけの見知らぬ他人である「他者」でさえも「私たち」の世界にリアリティを生み出していた存在であると考えざるを得ません。
平子は「ぜひ、会場で他者探しをしてほしい」と言います。「他者」から何かを読み取ろうという開かれた姿勢や意識により、「他者」である彼らは世界への架け橋となり、私たちを小さな環世界の外の世界へと導いてくれるはずです。ぜひ彼らの声に耳を傾けてみてください。
アーティスト
平子雄一、伊佐治雄悟、王冠蓁、熊野海、高橋直宏、陳雲、寺本明志

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