名称:「五十嵐誠 木工芸展」日本橋三越本店
会期:2023年10月25日(水) ~ 2023年10月31日(火)
会場:本館6階 美術工芸サロン 最終日午後5時終了
住所:〒103-8001 東京都中央区日本橋室町1-4-1
TEL: 03-3241-3311
URL: 日本橋三越本店
五十嵐誠の挑戦的指物
指物の世界は、素材である木の扱い方や、必要な精度において、工芸の内でも、さらには挽物や刳物など他の木工芸と比べても、とりわけ地道な工程とプロフェッショナルなレベルが要求される世界である。板材で形をくみあげるには曖昧さは許されず方眼紙を上回る精度が必要である。しかし、五十嵐誠は、そうした条件をクリアするにとどまらず、作家の表現としての新鮮な指物に躊躇無く挑んできた。
五十嵐の制作態度は、例えば木工芸の定石でもある銘木を探しだしてその杢目を生かす事や、表面の加飾で特徴を出すにとどまらない。むしろ一見素朴な木や、一般には木工作家が使用しないような木材も積極的に取りあげ、独自のフォルム、構造、意匠で、意外性のある木工作品を築いていく。また、五十嵐の作品は「木は茶色」という通念を悉く打ち砕く。木には黄・白・赤・黒ほか各々の木特有のさまざまな色があり、一枚の板材にも部分により多彩な色調を有する。五十嵐は木そのものの色を生かし、独自の造形に挑んでいるのである。
東京都立川市出身の五十嵐は少年時代、昆虫に魅せられたというが、昆虫の持つ形や構造の妙、色調の意外さは、どこか彼の木工作品の魅力と通じるものがある。幸運にも「それ」と出会った際の立ち去りがたいような魅力、手で触れてみたいという好奇心を、五十嵐の指物は喚起する。
指物という木工芸の未来を切り拓くのは、例えば五十嵐誠のような作家ではないだろうか。この度の個展で彼の飽くなき挑戦の姿を見出す事を楽しみにしている。
外舘和子(多摩美術大学教授)
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