名称:「山﨑萌子 泛海」日本橋三越本店
会期:2024年7月3日(水) ~ 2024年7月15日(月·祝)
会場:本館6階美術 コンテンポラリーギャラリー 最終日午後5時終了
住所:〒103-8001 東京都中央区日本橋室町1-4-1
TEL: 03-3241-3311
URL: 日本橋三越本店
泛海(はんかい)
舟は、いのりである。
若舟(ばかふに)は、大水(おほみ)に泛(うか)ぶ。
西南の風は、渦を巻いて天上から駆け下りる。
簀桁の中で揺すられる繊維は、海にたゆたう私であった。
紙を漉く姿は、世界に泛ぶ私であった。
ふたつの島が、心に深く染み渡る。
いにしえから伝わるいのりは、消えゆくとされる言葉で歌われていた。
誰そ彼時、風が吹き荒ぶ花蓮の海岸に出た。
目を細めても、三十里先にうかぶ島の姿は望めなかった。
旧正月から桜の頃まで、旅に出た。台湾で、バナナから繊維を採った。
与那国の糸芭蕉に合わせ、手練りの墨で染め、紙を漉いた。
黒潮にへだたれていても、ふたつの島には、ちかしい匂いがした。
空がどれほど荒れ狂おうが、雲はただ流れてゆく。
月明かりのもと、三万里の海にたゆたう若舟。
大水に泛ぶ舟、生きたあかしといのり。
コメント
トラックバックは利用できません。
コメント (0)
この記事へのコメントはありません。