高木耕一郎 「Deliver to Your Soul」MAKI(天王洲)

名称:高木耕一郎 「Deliver to Your Soul」MAKI(天王洲)
会期:2023年12月15日(金)〜2024年1月27日(土)
会場:MAKI(天王洲)
開館時間:11:30 〜 19:00
休館日:月曜日、日曜日
入場料:無料
住所:〒140-0002 東京都品川区東品川1-33-10 TERRADA Art Complex 1F
TEL:03-6810-4850
URL:MAKI(天王洲)

このたびMAKI Galleryは、高木耕一郎の弊社で2度目の個展「Deliver to Your Soul」を天王洲Iギャラリーにて開催いたします。1974年東京都生まれの高木は、大学卒業後にシルクスクリーンを学ぶためにサンフランシスコへ発ち、その後ニューヨークに拠点を移し、アーティストに師事する一方、画家としてのキャリアを始めました。2005年に東京へ帰国してからは、刺繍、版画、そしてペインティングの技法を組み合わせた独自の視覚言語を築き上げ、本展では、高木が今まで取り入れてきた宗教やカウンターカルチャーといったテーマに‘郵便’という新たなモチーフを掛け合わせた最新作を含む、約30点を展示します。
高木の作品と対面すると、不自然な色彩やポーズで描かれた、擬人化された動物たちがまず目を引きます。デフォルメされた動物たちの外見は一見愛らしく感じると同時に、時折見せるギラギラとした目つきやむき出しの牙は、野性的で猛々しい威圧感を醸し出します。その攻撃的な姿勢は、既存の社会構造やそれを維持する人々に対する不信感を示唆しており、高木が長年情熱を傾けてきたパンクロック、グラフィティ、ストリートファッション、タトゥーアートといったアメリカのカウンターカルチャーの強い影響が見受けられます。同時に、キャラクターたちのドラマチックなポーズはキリスト教絵画を彷彿とさせ、その反抗的な表情とは対照的な、神秘的とまで言えるオーラを放ちます。カトリックの家庭に育った高木は、幼い頃からキリスト教絵画を目にしてきたことによって、その独特なモチーフや構図は、やがて自らの創作物にも登場するようになりました。高木の作品に見られる様々な矛盾は、彼自身の内面で常に繰り広げられている、反体制的な信念と神聖な力への純粋な関心の葛藤を体現しています。
高木の芸術実践において、‘言葉’ もまた重要な役割を担います。彼のキャンバスには、「Good luck will find you(幸運は必ずあなたを見つける)」や「Envy is the ulcer of the soul(嫉妬は魂の潰瘍である)」などといった、時に励ますような、時に道徳を説くようなフレーズが刺繍されており、この言葉を発しているのが絵の中のキャラクターなのか、アーティスト自身なのか、はたまた神的な存在なのかは定かではありません。運命、愛、幸福といった壮大なテーマに取り組むその言葉は、寓話や説教などの教訓的でありながら相手に安心感を与える口調を想起させます。皮肉な見方をすれば、それは全知全能を主張する組織的宗教に対する風刺と解釈できるかもしれません。あるいは、それは心の中で繰り返すことによって、自己肯定感を高めることができるマントラのようなものかもしれません。鑑賞者は自分なりの解釈に挑むことにより、言葉とはいかに複雑で多彩なものであるかを身をもって感じることができます。
高木の作品に繰り返し登場する封筒、切手、郵便ポストなどのモチーフは、人間社会における言葉の重要性をさらに強調しており、作家は「郵便は私たちの内面の言葉を収め、切手はその言葉が響き合う証であり、送り手と受け手の魂が触れ合い私たちの魂に深い影響を与えている」と語ります。手紙は、人類が何千年もの間頼りにしてきたコミュニケーション手段であるため、歴史、政治、哲学、そして芸術などにおいて大きな時代の流れの記録として極めて重要な役割を果たしてきた一方、家族や友人との文通など、規模の小さな個人の記録としても欠かせない存在です。高木は郵便のモチーフを使って、人類史上で行われてきた無数の魂の交流と、他者との繋がりを求める人間の本能的な欲求を表現します。インターネットやSNSの到来によって、物理的な封筒や切手は昔ほど見かけることが少なくなりましたが、モチーフ自体は今も電子メールやダイレクトメッセージのアイコンとして使われるなど、デジタル世界で強力なシンボルとしての機能を発揮しています。それでも高木は、郵便が持つ感情的な価値を信じ続けています。紙に手書きで文章を綴り、封筒に入れ、丁寧に宛名を書き、切手を貼り、最後に郵便ポストに投函するという、労力と心遣いを必要とするこの一連の儀式は、バーチャルコミュニケーションでは再現できない誠意をメッセージに吹き込みます。
本展には、高木が従来使用してきた刺繍、絵具、インクに加え、シルクスクリーンを取り入れた作品も展示することによって、安定した制作力と緻密な手作業を組み合わせた、作家のますますマルチメディア化するアプローチに焦点を当てます。また、高木の奇妙でユーモラスな作品は、人間社会の起源にまで遡るような大きなテーマを扱いながらも、まるで友人との会話のような、素直で気取らない鑑賞体験を提供します。
高木の作品は聖と俗が共存すると同時に、ハイブロウとロウブロウ、ヒエラルキーと個人主義、古典と現代、信仰と疑念が絶妙なバランスを保っています。相反する要素が交錯しながらも、他者と繋がりたい、分かり合いたいという誰でも持っている内なる渇望を表現する、この不思議な世界を是非会場にてご高覧ください。

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