
名称:坂爪康太郎 + 成島麻世 「仮象体 – Illusional bodys」HIRO OKAMOTO
会期:2025年5月17日(土)〜2025年6月1日(日)
会場:HIRO OKAMOTO
開館時間:11:00 〜 19:00
備考:※御来廊いただく際は、正面玄関インターホンにて「103」をお呼び出しください。
入場料:無料
住所:〒150-0001 東京都渋谷区神宮前3-32-2 K’s Apartment 103
TEL:0585-58-3111
URL:HIRO OKAMOTO
「目に見えるものが存在するように思われるが、それはただの影に過ぎない。真の存在は、目に見えないイデアの世界にある。」 (プラトン『国家』より。Plato, Republic, c. 380 BCE)
この言葉は、古代ギリシャの哲学者プラトンが描いた「洞窟の比喩」の一節に由来する。彼は、人が見ている現実とはあくまで影にすぎず、真に在るもの(イデア)はその奥に潜んでいると説いた。私たちが感じる美しさ、正しさ、かたちのすべては、ほんとうの姿ではなく、一時的に映し出された仮の像にすぎない――そうした思考は、現代においてもなお、ものの本質を問う感性の根底に息づいている。
坂爪康太郎と成島麻世は、土と木という普遍的な素材を通じて、その奥に潜む原理やイメージに触れ、目に見えない実在を仮のかたちとして三次元の世界へと立ち上げる。
坂爪康太郎は、日常的な器づくりの装置である電動ろくろに、世界の起源的運動と神性とを見出す。回転するろくろの運動は、彼にとって世界の起源に触れる行為であり、その回転によって形成される中空の構造物たちは、まるで銀河や細胞のように、それぞれの理(ことわり)を宿している。こうして生み出された存在「ブリンカーズ」は、埴輪や土偶の記憶を響かせつつ、同時に未来的な進化の形態をも予感させる。
成島麻世は、切り出された木の肌に浮かぶ「前兆」とも呼ぶべきイメージを感受し、チェーンソーや彫刻刀で掘り進めることで、生命とも現象とも定かでない存在をレリーフとして顕現させる。さらにそこに岩絵具で抽象的な記号を描き加えることで、物質の表層と深層、実体と虚像が交錯するような奇妙な構造を立ち上げている。記号は木材の形に応じて変化する「前兆」をなぞるものであり、レリーフと記号のあいだに主従はなく、まるで並行する二つの時間軸が一点で交差しているかのようである。
「土を回し、木を彫る」行為そのものが、発せられぬ言葉、読めぬ文字でおこなわれる素材との対話であり、本展を表す造語「仮象体」という造形を結実する。
プラトンの言う「仮の像」。
その問いかけを、静かに引き受けてみてほしい。
影の向こうに何があるのか―― その想像こそが、見るという行為を照らし出す。
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