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金剛手 2009年9月20日更新

金剛手

【和:
【中:
面白テーマ|彫刻・書画|>金剛手

内モンゴル、チャハル
1700年頃
真鍮鍍金;漆、彩色、貴石象嵌
高185cm
ストックホルム国立民族学博物館
金剛手は、さまざまな形を持つ複雑な尊格である。仏陀の眷属として、金剛手は、初期の大乗仏典においては親しみのある像である。美術の分野では、主要な菩薩(英雄神)であり、金剛杵(慈悲の力の杵)を持っていることで識別される。大乗のタントラの伝統では、忿怒相であらわれる金剛手が一番多く、強力な守護者であり災厄の除去者である。また金剛手は、この世にあらわれる最後の仏陀となるだろうともいわれている。特にモンゴル仏教に影響を及ぼしたゲルク派では、金剛手はしばしば観音と文殊と同族とされる。神聖なるこの三菩薩は、守護者として、過去、現在、未来のあらゆる仏陀の、力(金剛手)、慈悲(観音)そして智慧(文殊)をあらわしている。本像は、有名な地理学者であり探検家であるスヴェン・ヘディンによって、内モンゴルのチャハルからスウェーデンにもたらされたもののひとつである。正法の忿怒の守護者としての役割に敬意を表して、ちょうどチベットやモンゴルの寺院の講堂の入口の近くに、しばしば見いだせるように、本書では、金剛手を、183点の作品の1番に選んでいる。
 この゛武将のポーズ″をとる金剛手のがっちりした体は、活力と落ち着きのバランスがよくとれている。右腕を、体の動きの方向に上のほうに押し出し、右手は軽く五鈷杵を握っている。左腕は腹前で曲げ、手は忿怒拳を結んで、バランスをとっている。両足は、生きた蛇を踏み付けている。衣と装身具は、忿怒相の像に通例のいくつか、例えば長い蛇の首飾りや、虎皮の腰衣(後ろには顔があらわされる)などを含んでいる。しかし全体的に、装身具は寂静の相の菩薩のそれで、宝石のちりばめられた5片の装飾板からなる宝冠、精巧な耳輪、腕輪、胸飾、そして足輪をつけている。金剛杵の半分が髪の中にも見られるのが興味深いが、おそらく金剛手の持物に関連したものであろう。宝冠から垂れ、肩の辺りを通って両側に翻っている、冠帯と長い天衣が、渦巻き状の動きを作り出し、体の活発なポーズを強めている。同様の攬挫するような動きは、端に立つ赤い髪の薄板によって、また、眉と口髭の炎のような形や、きつくカールしたあごひげによっても作られている。見開いて出た三眠、短いしわのある鼻(端にこぶがある)、そして漆で赤い唇がかたどられ、荒々しく叫んでいる口といった、その独特の顔だちは、魅力的で、真に迫っている。巻いた赤い舌が、大きく開けたくるみ割りのような歯の列の間に、チラリと見えている。像容には、勢いや活力があり、カラフルで、写実主義と様式化のバランスがとれている。
 この作品は、チベット美術の後期、すなわち中国、内外モンゴル、そして例えばブリヤートのようなシベリアの文化に、深く影響を及ぼした頃のものである。その美術は、中国の工房が特にチベットーモンゴルへ向けた制作を活発に行っていたため、しばしば゛中国・チベット″様式と呼ばれてきたが、近年の研究によって、この゛国際的な″チベット様式の地域的な特色が明らかになってきたようである。本像と、これとセットのほかの像は、1700年頃のモンゴルの一派のものと考えられる。この彫刻の様々な要素、例えば体の滑らかで、肉付きがよく、幅広なところ、大きめでしかもよく選ばれた様々なタイプのカラフルな貴石の嵌入、金の飾りにあらわされた独特の渦巻模様、そしていくぶん柔和で、若々しく輝くような容貌の忿怒尊は、この時代のモンゴル仏教彫刻の特徴である。これらの要素はまた、17世紀後期に活躍した、有名なモンゴルのラマで彫刻家のザナバザールに関係がある作品の中に見られるものである。この崇高なる金剛手は、チベットの仏教寺院、そしてこの国際的なチベット仏教様式をとるすべての地方の仏教寺院の、入口や祭壇の上にある巨像が発している、凄まじいオーラを伝えている。 出所:天空の秘宝チベット密教美術展 2009.09.19更新
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