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菩薩 2009年9月25日更新
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チベット中央部
ヤルルン王朝、9世紀前半頃
銅合金;はめ込み、銅象嵌、鍍金、金泥、彩色
高64.5cm
個人蔵
この彫刻は、おそらく観音(アヴァロキテーシュヴァラ)であるが、ヤルルン王朝時代後半の作になる、珍しい作品であるとみられる。ネパールで確立していた形に倣いながら、チベット人の創造の特色を持っているのである。この作品のすべての様相が、それ以降というよりは、9世紀頃の制作になることを示している。中国唐時代及び中央アジア(7世紀から9世紀)の彫刻と同じく、がっしりとして、頑丈そうで、自然な量感を持った体をしており、9世紀第2四半期のカチュ寺の彫刻群と関係がある。カチュ寺の菩薩像より筋骨たくましく表現されているが、それはネパールの彫刻よりも、9世紀の敦煌の有名な一群の幡にみられる菩薩像の方に、より近いものである。形の中身の深い充実度は、のちの彫刻が形の方により重点がおかれているのとは、はっきり異なっており、この珍しい菩薩を含む、すべての9世紀の作例の中でも、重要な識別ポイントである。
同種のタイプのネパールの像がとる優雅な姿勢に倣って形作られているといっても、この菩薩像は、カチュ寺の彫刻と最も近い堅さがある。一般的に、のちのチベット彫刻、ナルタン寺の弥勒菩薩に見られるような洗練に欠けており、重量感のあるこの大きなかたまりは、形の美や、11世紀とそれ以降のチベット彫刻の特徴である少し膨らんだ形には重きをおいていない。足の間の腰布の襞の縁と、ウッタリーヤ外衣(胸部にかかるショールで、ここでは、平らな帯状にして結ばれ、大腿部の下のほうに垂れている)の長い先端部分にみる緩やかな動きが、ネパールの7世紀から9世紀頃と位置付け得る作例、例えば、カトマンズのドゥヴァカ・バハの石造のストゥーパ(仏塔)にある菩薩像のような作品と関係がある。顔、目、眉、鼻そして口の形はみな、8世紀の、カトマンズのシガ・バハにある蓮華手の石造のストゥーパと類似している。しかし、甘く和らいだ表現をとるネパールのスタイルより、このチベットの彫像は、堅苦しく、少し厳格な表情をしていて、8世紀から9世紀の唐時代中期から後期の仏像に見られる、微妙に堅い表現を反映している。
本像は現在では、ヤルルン王朝からの稀少な金銅仏の遺例となっており、チベット文明初期の大切な宝物として考えてよい作品である。出所:天空の秘宝チベット密教美術展 2009.09.19更新
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