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緑カディラヴァーニー・ターラー 2009年9月26日更新

緑カディラヴァーニー・ターラー

【和:
【中:
面白テーマ|彫刻・書画|>緑カディラヴァーニー・ターラー

チベット中央部
12世紀前半頃
綿布着色
122.5×80cm
ジョン・ギルモア・フォード・コレクション
緑クーラーは、ターラーの最もダイナミックな相である。その体の緑色は、彼女が北方の仏陀、不空成就の族と関連があることを示している。彼は、嫉妬の心を変え、それを、智慧の完成へ向けての積極的な力に変える。そして緑(時々゛濃い青″とが黒″とも訳し得る)ターラー、ここではカディラヴァーニーとしてあらわされる゛カディラの木の森の住人″は、少し忿怒の相を示しており、災厄を除去するため、また危険から人を救うため、そして大概の邪悪を処理するために、怒りをしずめられている。
 本図において彼女は、右足をのばして行動を起こすために用意しているということを意味する遊戯坐とし、左足は蓮華座の上で折って瞑想にふけるポーズに描かれており、その両方で智慧と方便の不二を象徴化している。彼女の左手は、三宝の保護を与える施無畏印をあらわし、青蓮華の茎を持っていて、それが左肩の上にあるが、これは清浄と力の象徴である。右手は与願印(手がいくぶんあげられ掌を下に向けているのは、明らかに珍しい変形である)を結んでいるが、これは、ハラホトの作品20のタペストリーと、クリーヴランド美術館所蔵の緑ターラーにも見られる。別の青蓮華が、満開で正面を向き、右肩の上に浮かんでいる。彼女は若々しく美しく、帰依者の中にあって、エネルギーと熱意を発奮させる力をもっている。
 チベットにおいて、緑ターラーは、チベットの最初の宗教上の法王ソンツェン・ガンポ(649年没)の王妃で、ネパール人のブリクティと関連がある。ターラーもまた、アティーシャ(982-1054)の守護菩薩として仕えるため、この形を取り入れた。事実、この年代も早く非常に稀有な絵には、赤い帽子と衣をまとった僧の小さな姿と、在家者の服を着た男が、ターラーのアーチ型の龕の左と右の真上に位置しているが、これは、アティーシャと彼の最も傑出した弟子である在家のドムトゥン(1064年没)に、まず間違いない。彼等は共にカダム派の祖なのだが、それは、15世紀初期にツォンカパによって改革され、ゲルク派と名を変えた時点まで、一大流派であった。その彼等がここにいるということは、このタンカが、カダム派のものであると考えてよいようである。
 本図には、緑ターラーの、神秘的で魅惑的な性質が、道具だてや賦彩によって素晴らしくよくとらえられている。彼女の三葉形アーチ型の龕は、赤、黄色、オリーブ色と鮮緑色を交互に塗った、想像力豊かに様式化された丘が並んでできた、岩山の要塞に囲まれている。このモチーフの源泉はインドにあり、同趣の岩が11世紀の写本の絵や、クシャーン朝(1世紀-3世紀頃)の石像彫刻、例えばサンゴルからのものにも見られる。それらはネパールの11世紀から12世紀の写本や、12世紀後期から13世紀初期のハラホトのインド・チベット様式の中にも広く描かれている。興味深いことには、同趣の様式化を見せる山の形は、6世紀後期から7世紀初期の朝鮮の山水図を描いた塼にも見られるのである。これは、明らかに、早い時期からかなり長い期間にわたって、広範囲に広まったモチーフなのである。このタンカに見られる岩山の形は、ターラーの三葉形アーチ型龕だけでなく、周縁の諸尊像に対して、フレームのように用いられており、全体を、空想的で楽しげな、そして高度に装飾的な景としている。
 彼女の4人の脇侍は、すべて女尊である。後ろには、花の模様のある赤い短い上着を来た金色の2体の尊格が座っており、忿怒尊である。ターラーの右側にいる、忿怒の像は、頭が雌豚で、オリーブ・グリーンの上着をきた、赤色のマーリーチー(摩利支)である。前面にいる、穏やかな表情の金色の像は、明るい青色のアショーカの花を左手に持ち、金剛杵を右手に持っている。金剛杵は掌に平らにおかれているが、そのスタイルは、ハラホトの絵画にも見られるものである。これらはアショーカカンタという、二臂のマーリーチー(摩利支)とされる。本図の2人の像は共にマーリーチー・アショ一-カカンタのようで、ひとりは忿怒相で、もうひとりは寂静の相にあらわされている。ターラーの左には、暗いオリーブ・グリーン色のエーカジャーターがおり、オレンジのプリントがされた上着と、あげた膝のところに一部がのぞいている虎皮の腰衣をまとっている。彼女は、通例の持物である曲刀と、髑髏杯を持っている。 12世紀のインド(セーナ時代)とチベットの忿怒尊に典型的な、帆立貝のようなかたちに、眉をひそめている。エーカジャーターはまた、カディラヴァーニー・ターラーとともにあらわされるのが通例である。エーカジャーターの前にいる金色の像については、説明がもっと難しい。この像は、右手の掌に孔雀の羽、左手には蛇を持っているようである。したがってエーカジャーターと見なすことはできず、マハーマーユーリー(孔雀明王)とアールヤ・ジャーングリーという二菩薩、すなわち、マーリ-チーとエーカジャーターに加えて、通例マハシュリ・ターラーにれもまた緑である)とともに描かれる、二菩薩であろうかと思われる。これらの脇侍像は平板な朱赤色の頭光を負いターラーと同様に囲まれた光背がその背後を支えている。ターラーの周囲の全体の趣は、密集していながら、精密で、繊細に細部が形作られている。優雅に描写された、小さな蛇を頭の上にのせた2体の金色の龍神が、ターラーの蓮華座の渦巻型の枝の上に立っている。下部の暗いところから伸びた茎に沿って、彼らはターラーの蓮を支えているが、それはさまざまな色で繊細に縁取られ、台座に明暗をつけている。クーラーの暗く神秘的な世界に対して浮かびあがっている、散在する蓮の葉と、下の方の丘にいる小さな動物たちは、かよわく見えるが、明確に表現されている。この蓮華座のスタイルは、特にパーラ朝時代の東インドのベンガル地方-アティーシャの故郷であるーに特徴的なものである。
 緑ターラーの八変化が、両側に4体ずつさまざまなポーズで座っている。それは彼女の、八難からの救済者としての不思議な活動をあらわしており、この世の象徴と精神との両方を示す持物を持っている。救済を求められたとき、彼女は即座に教徒たちを八難、すなわち、1)獅子と慢心、2)野生の象と無知、3)火事と憎悪、4)蛇と嫉妬、5)強盗と邪見、6)牢獄と慳貧、7)洪水と渇愛、8)悪魔と疑惑、から救ったのである。
 上部の辺りには五仏の列があり、ターラーの仏陀の族の王である不空成就は、二脇侍菩薩とともに中央に描かれている。シュロの木、動物そして何人かの人物が、直立した山の岩の頂上に沿ってあらわれている。本図の主尊の部分の下方の、岩の枠で境界がつくられたところには、菩薩と侍者の座す壁龕がある。底辺に沿って、四角とトウモロコシ型の宝石を交互に繰りかえすデザインの縁で主尊部分と空間が分けられ、5人の素晴らしい尊格が座している。みな六臂で、女尊で、片手に長い刀を掲げている。不空成就仏の忿怒形である甘露軍茶利(アムリタ・クンダリー)か、あるいは緑ターラー自身の別の忿怒形か、おそらくそのどちらかと関係がある。一番左には、チベット人の僧の身なりをした施主が、儀式での奉納の品々の前に座っている。このタンカにアティーシャとドムトゥンがいるということは、おそらく彼らの時代より下った時期のものであろう。僧形の施主はその系統の弟子である可能性が高く、おそらく次の世代の者であろう。これは、一番早くて11世紀の第4四半期頃に位置付け得ることを示唆している。このタンカが12世紀後半を下ることはないことは明らかである。この作品は疑いなく、チベット中央部の早い時期の、最も美しく、稀有な、重要な絵画である。菩薩を主尊とするもの、そしてこのようにアティーシャとドムトゥンというカダム派との確かなつながりを持った作品は、ほとんど残っていないのである。出所:天空の秘宝チベット密教美術展 2009.09.19更新
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