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パドマサンバヴァ 2009年10月5日更新
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西チベット、グゲ地方
16世紀後期-17世紀前半
綿布着色
142.3×96.5cm
個人蔵
この薄暗い神秘的な絵は、パドマサンバヴァとその2人の妃が、その伝記の場面に囲まれている。薄暗い色彩をさえぎるように明るい金彩があり、瑜伽行者の師の神秘的なオーラを反響させているようである。マンダラヴァとイェシェー・ツォギャルがそれぞれインドとチベットの衣装をまとい、主尊として画面中央部を占めるパドマサンバヴァの両側に小さく脇侍として立つ。畏敬させる、写実的で柔和な姿は、すべてのチベット美術のパドマサンバヴァのうちでも最もすばらしい表現のひとつである。彼は風景場面の中にあらわされる。周囲のさまざまな場面の基本的風景や建築的情景は、流動的であいまいな空間のニュアンスを作り出している。衣はゆったりと体にかかり、衣の下の身体の硬い実体感を感じることができる。光背は、通常の不定形の植物文や地味な色彩ではなく、暗い空間に繊細な金の線が散らされている。すべての特徴が普通とちがっている。金色の顔から、大きく円い暗い色をした目は、見る者を画面の内側へ引き込むと同時に、射抜くような視線をもつ。肥痩のない朱線で顔は描かれるが、対照的に髪や眉、口髭は繊細で弱々しい線で描かれている。薄暗い色の衣には、金線による花文、言文、幾何学文があらわされるだけでなく、外側の袈裟には、万華鏡のような花文が配される。壮大な広い金の帯が濃い暗青色と赤みがかった茶色とを補っている。
伝記の場面は、彼の周囲の半透明の暗い部分で展開する。雲がくすんだ薄紫や青、赤色をしていろ。茶色の岩は、金色で縁取られ、建物は鈍い茶色と橙色である。伝記は画面上端中央の阿弥陀三尊像とその浄土から始まり、画面左半分にインドでの出来事が描かれ、右半分にチベットでの出来事が描かれる。
下端の銘文からトゥッチは、このタンカは、ほかの作は知られていないが、連作の一番目に当たるものと推測した。画面構成や細部の特に小さな場面におけるグゲ様式とのつながりは、西チベットのものであることを示している。様式的には16世紀第3四半期の作であるソナム・ギャツォのタンカと、それより約1世紀遅れる1675年頃の作であるクンガ・タッシの画像の間の時代にあらわれるものである。建築の形のように16世紀のグゲ様式の要素は存続するとはいえ、新しく自然主義に重点を置く点は17世紀の制作を示唆する。描写のもつ魅力と作品の神秘的な雰囲気によって、チベット美術の最も並外れた名品となっている。出所:天空の秘宝チベット密教美術展
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