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大黒天 2009年10月6日更新

大黒天

【和:
【中:
面白テーマ|彫刻・書画|>大黒天

おそらくチベット
12世紀
黒い堆積岩
高19cm
ロバート・ハットフィールド・エルズワース・コレクション
大黒天(マハーカーラ)は、チベットの忿怒尊の中でも最も人気の高いものである。大黒天は文殊と観音によって調伏されたという説話があり、慈悲の菩薩の忿怒の姿と考えられることがある。大黒天は、守護尊のように、修行者の自覚をもって覚りを開いた者のような働きをするか、あるいは、忿怒形の護法尊のように仏法とその信者を保護する者である。守護尊としての姿は「マハーカーラ・タントラ」に記され、大成就者シャヴァリーパに関連づけられる。近代のチベットでは、より一般的に精神的な守護者として信仰される。守護尊としての大黒天に適応する修行は、インドからこの尊像の経典をチベットにもたらした大訳経官リンチェン・サンポ(958-1055)による大黒天の啓示に基づいたもので、特に10世紀後期から12世紀にかけて西チベットで流行した。この大黒天の彫像は、四背の半跏踏下像でおそらく11世紀後期か12世紀とみられる初期のチペット美術の石像の珍しい作例である。様式的にインド風が強く、あるいはインド製かもしれないが、チベット語の銘文が背面にある(判読不能)ので、チベット人が発願したものかあるいは使用していたものとみられる。当初の彩色が多くのこっており、珍しいものである。明るい赤と金と、海松色の鮮明な色彩とトルコ石の色は、現在の絵画に見られる顔料に近く、明白な心地よさと豊かさを作品に与えている。
 大黒天は、彼の世界の主のようにあらわされ、ずんぐりとして豪快にふんぞり返り、大きな四角い顔、大きな手と丸々とした裏の赤い足を持つ。第一手には、金剛包丁を髑髏杯の上で持ち、物質的な消極的な態度を、空の会得をあらわす髑髏杯の中で切り裂く智慧の鋭い切れ味を象徴している。第二手は右手に幅広の智慧の剣を持ち、左手には三叉戟の付いたカトゥヴァンガ杖(微細な中央脈管を支配する力をあらわす)を左手に持つ。忿怒の姿としての大黒天は熱狂的感情に打ち勝ち、内的な精神的障害を取り除く力を持つ。恐ろしい形相で、針金のように張った眉と口髭があり、三つの血走った黄色い眼を見開く。顎は力強く、ちぢれた顎髭で強調される。穏やかな口は、ただわずかに開いて、すべての人を誤らせる悪の抗力をつぶすことを象徴する牙のような歯をみせるだけである。体は堂々としてしゃがみ込み、腹部は内なる力に膨れ上がる。また、装身具は恐ろしいものをつける。五髑髏冠は、貧・瞋・癡・慢・疑という五つの煩悩を、法界体性智・妙観察智・平等性智・成所作智・大円鏡智という五智へと転換するものである。生きた蛇が頭飾を締める帯や耳飾り、聖紐(バラモンの持つ聖なる紐)、腕輪や足輪として使われる。50の生首の首飾りは、欲望、虚偽、攻撃性、悪意、偽善といった精神作用の打破を象徴する。虎の皮を腰に巻き、虎の足を背中で縛り、頭を右膝の上に置く。頭髪は、黄色がかった赤色の螺髪状で、火焔のように立ちのぼる。顔貌は、恐ろしいのと同時にかわいらしく、落ち着いてくつろいだ遊戯坐で、肌色の自己本位の悪の体の上に座る。身を飾る瓔珞とはためく天衣は、装飾的で生き生きとした面をこのすばらしい彫刻にあたえている。
 この彫刻は11世紀と12世紀の西チベット彫刻とは明らかに異なっており、1292年の作である大きな石製大黒天の、より飾られて豪華な様式とも異なっている。出所:天空の秘宝チベット密教美術展 2009.09.19更新
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