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尊者ダクポチェ 2009年10月7日更新
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チベット中央部または東チベット
17世紀後半
綿布着色
79×63.5cm
ニューアーク美術館
この作品のように黒地のタンカは特別な黙想的な絵画のカテゴリーを形作る。非常に神秘的密儀的で通常高度な修行をするために保持されたものである。黒は憎悪の色で智慧という錬金術によって完成する智慧へと変えられる。闇は絶対的なものではなく、空は無ではない。闇は、絶対的なものの緊迫、体験の境界である。絶対的なもの自身は、むしろ明るく透明なもので、すべての相対的な形と、脆弱な生けるものが、そのなかで存在している。しかし、闇は死を暗示し、覚りはそれを法身へと変換する。それは、あらゆる形の悪を根底から克服する恐ろしい儀式に用いられる。悪を滅ぼすのではなく、悪を善へと転換するのである。このように黒い絵画(ナクタン)には、背景に神々を半透明の輝く姿で配する。この様式は17世紀中期から目立つようになり18世紀にはチベットでは一般的になる。
このタンカの主尊は、ニンマ派で中心的に用いられるもので、D.I.ラウフによればあきらかにテルツェン・ペマ・リンパ(1450-1521)の瞑想によって得た姿に関連するものである。ここではパドマサンバヴァがヘールカ系の守護尊であるグル・リンポチェに変化したもので、神妃を抱擁する合体像であらわされる。身色赤褐色で三面六臂四足あり、右面は白、左面は緑色である。右手は金剛包丁、剣、金剛杵を持ち、左手は髑髏杯、黒い七眼の蠍と三叉戦が先端に付いたカトゥヴァンガ杖を持つ。妃は左手で髑髏杯を持ち上げ、その主人に甘露を差し出す。右手には金剛包丁を持ち、主尊の頸の後ろに隠れている。
中尊の二尊の周囲には多数の独尊が、さまざまな形の光背や台座を伴って浮遊している。下方には岩の地面があり、中央に供物の入った髑髏杯があり主要な財宝神がいる。中ほどの位置には、獣面のダーキニー護法尊かおり、下半身が金剛橛の形をした神が4体いる。5体の舞踏する智慧のダーキニーがいる。主尊の上部には、ガルーダ(智慧の鷲)にのる阿弥陀仏がいる。2体の忿怒尊ヘールカがその脇にいる。上方の列には、左から先ほどとは別のヘールカ像と、通常の姿のパドマサンバヴァ、右側にニンマ派の本初仏で寂静尊である青色の法身普賢が青色の妃普賢仏母と合体像であらわされる。その右側の画面端に四臂観音菩薩がいる。見事な描写や諸尊の抑制された色調、繊細なモデリングによって黒タンカの効果が最大限に引き出されている。様式の優美さは、ダライラマ5世(在位1674-1681頃)の写本に近似し、この珍しいタンカはダライラマ5世の時代の作と思われる。出所:天空の秘宝チベット密教美術展 2009.09.19更新
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