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大訳経官リンチェン・サンポ 2009年10月8日更新
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チベット中央部または西チベット
11世紀後期-12世紀前半
綿布着色
84×70㎝
個人蔵
このタンカの背面、主尊の裏に墨で以下の賛詩が書かれている。比類無き偉大なる訳経官であるあなたは、私にとって第二のブッダのようにみえます。あなたの分離することのできない智慧と覚り。紛れもないダルマターラ尊。私は尊敬の念をもってあなたに従います。」ほぼ間違いなくこれは、訳経官にして西チベットにおける初期の重要な伝道者であるリンチェン・サンポ(958-1055)のことを指している。リンチェン・サンポは、西チベットの王の後援を受けてカシミールとインドに17年間留学し、そこで彼は経典はもちろん、タントラや専門的経論など多数の重要な仏教文献を翻訳した。彼は後伝期のチベット仏教を主導した人物のひとりなのである。彼は第二のブッダと呼ばれて称賛され、伝説的な聖者である訳経官ダルマターラにも擬された。そしてその姿は唐代の中国からインドヘと翻訳するための経典を求めて旅した中国僧玄奘がモデルとなっている。
リンチェン・サンポは座って説法する姿であらわされ、おそらく白色の蓮華手と黄色の弥勒にあたる2体の小さな菩薩を従えている。図像の体系は複雑であり、画面には140体以上の像が描かれている。 このタンカは、おそらく11世紀後期から12世紀前半頃に描かれたものであろう。この偉大な訳経官の面貌は、大きな顔の顎と口に薄いひげがあらわされ、大きく口をあけて笑っているにれはリンチェン・サンポの特徴として知られる)。
その口は初期チベット絵画の最も優れた肖像画にみられる繊細で自然な感じの線描と形態によって描写されている。彼の着る衣の唐草文様、つぎはぎの布、縁のデザインには飾り気がない。それは強さと簡潔さを持ち、そして12世紀や13世紀の多くの作品の衣のパターンのように華麗に洗練されてはいない。このタンカの中央部分は、クロノス・コレクションにある11世紀後期のアティーシャ像やメトロポリタン美術館の高僧像にある程度の類似が認められる。しかし、本図の描線や色彩はより柔らかく繊細になっている。また面貌描写には硬い描線のアティーシャ像やメトロポリタンの高僧像にはないリアリズムがある。
付き従う2体の菩薩は初期的なスタイルをとっており、トゥッチがイェマル寺で撮影したものによく似ている。それは13世紀へかけて存続する12世紀後期のスタイルより、さらにさかのぼるものである。本図は数少ない初期チベット絵画に重要な1遺例を加えるものである。特に表現力に富む稀なリンチェン・サンポの肖像として、また、きわめて多数の像を描き込む作例として注目すべき作品である。出所:天空の秘宝チベット密教美術展 2009.09.19更新
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