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ササン・パクパ・ツォンヌ・ロトロ(マティ・パンチェン) 2009年10月8日更新

ササン・パクパ・ツォンヌ・ロトロ(マティ・パンチェン)

【和:
【中:
面白テーマ|彫刻・書画|>ササン・パクパ・ツォンヌ・ロトロ(マティ・パンチェン)

チベット中央部、おそらくツァン地方
14世紀後期
綿布着色
45.7×52.4cm
個人蔵
このタンカは、J・シンガーによってサキャ派ラマであるチョギャル・パクパ(1235-1280)に比定されてきたが、それは「法の祖師パクパヘの賛辞」という語句で終わる画面下部の賛文を主たる根拠とした説であり、至極当然に導き出されたものであった。この像主の比定における問題点は下記の3点である。
1)チョギャル・パクパは普通きれいにひげを剃って、僧帽をかぶった姿であらわされる。彼は45歳で亡くなっていて、白髪で顎ひげをたくわえた姿では知られていない。
2)チョギャル・パクパよりものちに生まれたラマたちが主尊よりも上に描かれている。普通そこには主尊の精神的指導者や祖師以外はあらわされない。
3)賛詩は「法の祖師」(Choje)と記し、「法の王」(Chogyal)とは記さない。また主尊頭上の小欄に描かれた小さなラマ像には「ササン・マティ」と記名されているようである。タンカにおいては同一の作品のなかで主尊が別の相をとって繰り返し表現される場合があり、それは主尊が最も一般的な相以外の相で描かれている場合が特に多い。それでもこの作品の場合まずこのササン・マティなる人物が主尊像主の候補から除外される。画面下部の主要 な賛詩の1行目は「Gzhon nur」で始まり、2行目は「Blogros」、最後の行は前述したように「Pakpa」を称賛する。これらが賛詩に記される主尊の四つの名前のうちの三つである。さらに、2行目の全文をみてみると、「あなたの理知一素晴らしき邸宅は、タントラの宝石で満たされている」(blogros khang bzangs (sic.)rgyud sdei nor busgang)の「素晴らしき邸宅」から、彼の四つ目の名前には「素晴らしき場所」(sa bzang)を参考とするのがふさわしい。トクメパ(左上部)とジャンツェパ(右上部)は間違いなく主尊の主要な指導者であろう。主尊に最も近い師あるいは主尊自身の理想化された姿であるならば、細密画には僧帽をかぶった姿であらわされるはずなのである。画面を占める主要な像は、頭髪を剃り、肩のうえの蓮華に金剛杵・金剛鈴を載せて、金剛阿閦梨を教授する生きているような姿の肖像である。生存中のラマを描いた肖像画とおぼしきこの絵は14世紀後期頃に制作されたものであるから、像主もその頃の人でなければならない。
 以上の事柄がチョギャル・パクパ像主説の問題点を解き、像主を比定するためのてがかりである。 主尊は美しく飾られた黄色い座具を背にして格子状の衝立の前の台座に座っている。衝立のデザインをみると、金属をあて、燃えるように美しい宝石と瑞兆をあらわす鳥の頭部の装飾が施されているが、これは14世紀から15世紀のチベット絵画に多くあらわれる肖像画の精巧な椅子のデザインに類似している。ラマは大柄な体と四角い顔であらわされており、白く短い髪は剃った頭を取り囲み、デリケートなひげは像主の性格への興味をそそる。なめらかな曲線で描かれたつぎはぎの衣は安易で奔放なパターンによって構成されており、それは制作され使用された世紀についての確信を保証してくれる。手からは細い茎が伸び、その先の明るい赤と白の蓮華には金剛鈴・金剛杵が載せられていて、主尊が説法する様をあらわす。弧を描く虹やピンクと白の雲、神々しい花々や繊細な小さい花房は、濃密な暗青色の背景に描き出されている。
画面下部では、供物を捧げて礼拝するラマと大黒天が赤い壇の両側に描かれ、近くの祭机にはさまざまな法具が載せられている。主要な賛文は台座の支柱の間に記されている。  この作品は単純な構成の絵画である。しかしこの絵の潔癖で、精密で、堅実な作品としての質は、14世紀後期頃のサキャ派における重要な様式の絵画の一群にみられるものと同趣のものなのである。出所:天空の秘宝チベット密教美術展 2009.09.19更新
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