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大黒天パンジャラナータ 2009年10月13日更新
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チベット中央部、おそらくツァン地方
16世紀前後
綿布着色
161.6×136cm
ツィンマーマン・ファミリー・コレクション
牙をむいて眼を見開いたこの大黒天の像は、重々しく死体の上に乗って立つ。巨大な金剛包丁と、血と悪鬼の臓物を入れた大きな白い髑髏杯を持ち、それを不老不死の甘露にかえる。両肘で装飾された木製のガンディ銅鑼を支え持つ。これは仏教僧院で僧を呼び集める時に用いるもので、ナーランダ僧院の守護とさらにはすべての仏教寺院を守護するというこの尊格の誓約を象徴する。その周囲には、醜悪な姿の羅刹女、ジャッカル、カラスの群やその他の餌食になる動物たちが描かれる。バラバラになった身体の一部が宙に浮かび、くすんだ薄暗い世界の凄惨な様を演出している。丸々とした黒い身体と大きな頭部に優美にまとっている装身具は、宝石を散りばめた金冠や天衣、首飾り、耳飾り、さらに同じように細かく入念に仕上げられた腕輪、足輪、網状の腰衣といったものがあり、これらはみな、人骨で作られている。生首を付けた蛇の首飾りと白亜色の五髑髏冠が、骨の装身具とむき出した目玉とぎらつかせた歯を補うようにあらわされる。恐ろしい装身具をまとうことによって、恐ろしさを減じないようにしている。この特殊な姿の大黒天は、その腕で支える木製の銅鑼によって簡単に認識できるもので、サキャ派で人気の高い護法尊である。
画面上端には、インドの大成就者たちと、サチェン・クンガ・ニンポやサキャ・パンディタを含むサキャ派のラマがいる。光背と台座の周囲の四隅には、大腿骨の笛を持ったブラフマナルーパを含む、中尊とは別の姿をとった大黒天があらわされる。下端には、左から右に大黒天の五大眷属があり、その間に様々な階層の人々を小さくあらわしている。
威圧するような大きさながら、この絵の色調は全く抑制されたものである。青、緑、赤、褐色の色彩は、ほかのサキャ派の作例に見られるような、明るい色彩によって生み出される強い天空をほのめかす表現よりもむしろ、穏和で素朴で自然なオーラの放射の表現のほうが支配的である。15世紀に一般的な特徴で、ギャンツェのクンブム寺に特に見られる相当な形式化があるにもかかわらず、形の丸みへの意識の増大と色の面の堅さがとれてきている。これはまったく自然主義的な空間表現が始まっていることを示している。人物や動物のより自由な曲線の形は、動感と空間に自由な感覚をあたえている。これらの変化は、この絵が16世紀にはいってから制作されたことを示している。一方で、ギャンツェの画派との結びつきは、画派の系譜の勢力を示すと同時にこの絵がツァン地方のものであることを示唆する。保存状態がよく、絵の魅力といいその大きさといい、この絵はこの人気のある削象の稀有な名品である。出所:天空の秘宝チベット密教美術展
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