名称:「仏像工学——追体験と新解釈」東京大学総合研究博物館
会期:2021.04.27-- 終了日未定
休館日:月曜休館
開館時間:11:00から18:00まで 金曜日は20:00まで, 土曜日は20:00まで
主催:東京大学総合研究博物館
住所:〒100-7003 東京都千代田区丸の内2-7-2 JPタワー 2F、3F
TEL:050-5541-8600
URL:東京大学総合研究博物館
仏像の模刻作品6点を展示します。展示する模刻作品は、東大寺中性院弥勒菩薩立像、東京国立博物館日光菩薩像、東京藝術大学月光菩薩像 、山形県慈恩寺釈迦如来坐像、唐招提寺如来形立像、秋篠寺乾漆心木になります。東京藝術大学大学院美術研究科文化財保存学保存修復彫刻研究領域において、修士、博士修了研究として取り組まれた模刻作品であり、模刻を通じて得られた技法構造に関わる知見も紹介します。
ミュージアムが実践する活動の一つに「保存」がある。展示公開と保存を両立させていく事が重要であり、さらには形態の現状を維持する事のみが保存ではなく、それらに付随する情報に加え、新たな知見を見出していく研究活動も重要である。この度「保存」をテーマに、東京藝術大学大学院美術研究科文化財保存学保存修復彫刻研究領域において、修士、博士修了研究として取組まれた模刻作品6点を展示する。考古学の分野においては古くから当時と同じ行為、制作を実験的に再現する事で、研究を検証する事例がある。文化財保存学における模刻制作においても、当時の技法を再現することにより、自然科学分析からは判断しづらい詳細な制作工程や構造を検証する事が可能になる。制作当時と同じ行程を追体験し、当時の制作者と同じ視点から観察する事で、新たな発見が生まれる場合もある。模刻制作には、軟鉄と鋼を鍛接した鑿や、焼入れを行った鋸等の道具に加え、檜、漆に代表される伝統的な材料を、可能な限り制作当初と同様に使用しつつ、一方では、先端技術である3DレーザースキャニングやX線による調査結果を参考にしている。古典的な道具、材料と現代の技術を上手くコントロールし、エンジニアリングしていく事で、正確な模刻制作が可能になる。完成した模刻作品は、新たな美術史学的知見を追求した成果であり、現代の新作(真作)であるとも言える。
日本国内における美術工芸品の国宝、重要文化財の指定を受けている作例の内、最も多く指定されているのは彫刻である。彫刻とは主に仏像である。それらを保存していくには、温湿度、耐震、防火等の環境や法制度を整えるだけでは難しく、このような模刻制作を通じて、少しずつでも新たな知見を集積する事が、今後の文化財の保存に繋がるものになる。
東大寺中性院弥勒菩薩立像想定復元模刻
小島久典 制作 / 2014年
鎌倉時代の仏師の意図に迫る事を目的とし、科学調査に基づきつつ、非常に複雑な内部構造まで正確に模刻した作品。制作を通じて、もともと真っ直ぐに立っていた像を、まるで歩いているかのような姿へ制作途中で改変したために、特異な構造となった事が明らかとなった。また、この改変によって生まれた独特な姿が後の世代に受け継がれていることから、日本の仏像が大きく姿を変えた鎌倉時代初頭における、プロトタイプ的存在であった可能性も伺える。
東京国立博物館日光菩薩像及び東京藝術大学大学美術館月光菩薩像模刻
白澤陽治 制作 / 2013年
奈良時代木心乾漆造の脇侍像の模刻。木心乾漆造は、木彫による心(心木)に木屎漆で細部を塑形する技法として知られ、その技法の成立や展開には不明な点が多い。両像の心木は、頭・胴・腕・脚等、骨格的に部材が構成され、対称的な要素を持つ脇侍像を制作するための工夫がある。その部材構成は、構造的な強度や加工のしやすさについても配慮され、彫刻的な量感や動きをとらえるためのシンプルな形状でつくられている。それは、木彫像として制作するためのプロセスではなく、木屎漆による捻塑工程を踏まえた構造・形状であることを感じるものであった。理想とする形状をつくるための計画性とともに、随所にみられる惜しみない手間は、より彫刻的な表現を行うための制作手法であったことも窺える。
山形県慈恩寺釈迦如来坐像模刻
李品誼 制作 / 2020年
慈恩寺釈迦三尊像模刻研究のうち釈迦如来坐像。慈恩寺釈迦三尊像の精度の高い科学的な調査から、像底や矧面に陰刻線が確認された。それらを3Dデータ等にて検証した結果、陰刻線は制作上の基準であると考えられる。三尊像のシルエットは酷似しており、共通の図面が存在したとも考えられる。模刻制作を進めることで、最初は決まった図面に従って造像されていたところ、途中で頭部をまるごと作り変える、手の印相を変更する等、様々な改変を行った事が解る結果となった。院政期には、権力者の要請により仏像の造形修整が行われた記録も残ることから、仏師たちもそれに応じて様々な工夫をこらしていた事も伺える。
唐招提寺如来形立像模刻
土屋仁応 制作 / 2003年
平安時代前期に多く用いられた一木造りによる如来形立像模刻。唐招提寺に伝わる本像は、両腕を屈骨し法衣を着けて直立する如来像であり、 頭部、 両腕先、 両足先は失われている。抑揚に富んだ肉感的な躯部と、丸みのある大波と鏑を立てた小波とが交互にあらわされる翻波式衣紋が特徴である。翻波式衣紋は、平安時代初期に多く用いられた表現であり、誇張された量感を引き締める印象を持たせ、迫力を一層際立たせている。−木造りの制作工程では、乾燥していく際の干割れを防ぐため背中側から、内刳りを行う。本模刻においても同様に行なったが、大きく干割れが現れる結果となった。木材の乾燥が不充分だった事が原因と考えられつつも、当時の木材に対する深い理解が伺える結果でもあった。
秋篠寺乾漆心木模刻
菊池敏正 制作 / 2008年
脱活乾漆像制作における塑造原形時の心木と、乾漆像内に挿入された心木が同一と判断される天平時代末期の作例である秋篠寺乾漆心木の現状模刻。各部材を鉄釘で固定する点や、随所に見られる枘穴からは、高度な木工技術の基盤が伺える。また、上膊部に一木彫像の背刳りに良く似た構造の内刳りがあり、腕の大部分は木心乾漆技法で制作されている。このような特徴から、脱活乾漆技法が衰退する天平時代末期においては、多くの技法が混在していた事を示しており、制作を通じて、枘穴に挿入された角材は、塑土止めだけでなく、像の輪郭線の基準になるように挿入されていることが伺える。
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