展覧会・博物館・美術館・記念館

名称：ブライアン・ハート 「Return of the Hawthorn」MAKI（天王洲）
会期：2022年11月26日(土)～2023年1月14日(土)
開館時間：11:30 〜 19:00
休館日：月曜日、日曜日
　　　12月25日〜1月9日は休廊
入場料：無料
会場：MAKI（天王洲）
住所：〒140-0002 東京都品川区東品川1-33-10 TERRADA Art Complex 1F
TEL:03-6810-4850
URL：MAKI（天王洲）

このたびMAKI Galleryでは、アイルランドを拠点に活動する作家ブライアン・ハートによる個展「Return of the Hawthorn」を天王洲Iギャラリースペースにて開催いたします。作家の個展は弊社で二度目となり、本展ではハートの13点の新作ペインティングが展示されます。これらの作品は、これまでの彼の作品でも関心の中心に据えられている作家の身近な環境を扱い、それを解体・再構築することによって不安定な現代の風潮を捉えようという試みが行われています。
一見したところ、ハートのキャンバスに描写された物や形は、あてもなく浮かんでいるようにも、無秩序に集まっているようにも思えます。それぞれの要素は互いに明確な関係を持たず、完全に単独で存在しているように見えるでしょう。前景と背景の間には広い間隔が置かれ、奇妙で見慣れない空間を作り出しています。顔のない人物は、鑑賞者に僅かに背を向けて、不規則に配置されます。そして、何かしらの断片的なものが、解読不能な存在として集積しているのです。
更に目を凝らすと、吊り下げられたランプや椅子、額縁などが姿を現し始めます。イメージが徐々に解きほぐされることで、キャンバスに描かれた場面は展開していきます。ハートは、リビングルームやダイニングルームといった家庭の日常的なスペースを巧みに扱い、それを取り囲む壁を越えたところに存在する大きな何かを探っていくのです。このシンプルな枠組みを守りながら、作家は画面の中で遊び心を発揮します。意図的に選択された広範に及ぶ色彩は、時に海面や気温の上昇といった差し迫った環境問題を暗示しています。線とグリッドは混沌とした空間に構造を与え、日常的に行われるスポーツやボードゲームをさりげなく引用しています。この隠喩は、人間が世界を操る方法についてハートが言及する際に繰り返し用いられます。
ハートの作品を知るためのヒントは各作品のタイトルにも隠されています。「E45」では、消え入りそうな人物がドレッサーに寄りかかり、俯いています。ドレッサーの上には、刺激物や厳しい気候から肌を守るための塗り薬、E45の容器が置かれています。「Temperature」では、肘掛け椅子に気怠そうに横たわる人物が、深い赤色に包まれています。その人物の脚の横にある不明瞭で黒ずんだ塊は煙を吐き、その上の空間は炎で覆われているかのようです。作家は、キャンバスの各所に残した簡単に見過ごされてしまいがちな微妙な痕跡によって、私たちの日々の選択に対する疑問を示唆しています。それは、環境から身を守るために実験室で作られたクリームに頼り、差し迫った災害が起こるのをぼんやりと待っているような、そんな私たちの選択への疑問なのです。
どの作品にも暗く不穏な雰囲気が漂っていますが、「Return of the Hawthorn」という展覧会のタイトルが示すように、そこには微かな希望が残されています。本展のための新作を制作していたとき、ハートはアトリエの近くにあるサンザシの木が白い花を咲かせている長い土手に出くわし、変化と新しい始まりのサインを感じました。私たちは常に環境破壊のニュースに晒され、将来の生活環境への不安を募らせていますが、ハートはこのような状況下でも私たちが前向きな未来を描くための手掛かりを示します。彼の作品は、世界における私たち人間の位置、そして世界に与える影響を表しながら、私たち鑑賞者がそれに向き合い、理解しようとすることが希望を持ち続けるための活力になるのだと語りかけているのです。