名称:「大坪美穂 黒いミルク―北極光・この世界の不屈の詩―」武蔵野市立吉祥寺美術館
会期:2024年4月13日(土)〜5月26日(日)
会場:武蔵野市立吉祥寺美術館
開館時間:午前10時00分~午後7時30分
休館日:4月24日(水曜)
入館料:一般300円、中高生100円、小学生以下・65歳以上・障がい者のかたは無料
主催:武蔵野市立吉祥寺美術館(公益財団法人 武蔵野文化生涯学習事業団)
住所:〒180-0004東京都武蔵野市吉祥寺本町1丁目8番16号 FFビル7階
TEL:0422-22-0385
URL:武蔵野市立吉祥寺美術館
大坪美穂は、人間存在を主題とするアーティストである。現代の問題を鋭敏に感受しながら、重厚な作品空間を創出している。
最初期には絵画や身体表現に取り組んでいた大坪だが、家族の死と誕生、自らの病、人間の尊厳を揺るがすできごとの見聞といった経験をとおして、表現の手法を変化させていった。近年では、自ら収集し染めた古布、ニュースペーパーと和紙による紙縒り、薄い鉛板などを素材にもちいて制作している。大坪の作品とは、あまねく必然としての創造であり、大坪自身の生の実証であるといえるだろう。
大坪の作品をかたるうえで特筆すべきは、その素地にある「ことば」だ。大坪の表現の源流には、彼女が豊富な読書経験や詩作などからとらえた、さまざまなことばが存在している。わけても、ドイツ系ユダヤ人の詩人パウル・ツェラン(1920~1970)、アイルランド語によって詩作する女性詩人ヌーラ・ニー・ゴーノル(1952~)の詩は、大坪の血肉になっているといっても過言ではない。大坪がふたりの詩から受けとった深い感動は大規模なインスタレーションとして発露し、20年超にわたって国内外の各地で展開され、多くの人びとの心を引きこみながら、広がりと深化をつづけている。
終戦直後の荒廃した街並みが原風景であると語る大坪は、いかなる局面にあっても、作品にあらわすことによって、確かな生をつかもうとしてきた。本展のタイトルとして大坪が選んだことば―「黒いミルク」はツェランの詩「死のフーガ」に依拠し、「北極光」「この世界の不屈の詩」はニー・ゴーノルの詩「北極光」から引いている。言うなれば闇と光とが並立するタイトルだが、ここには、割り切れぬ人間のありようと、それを直視しつつ希望を見失わない大坪の力づよさとが、示されているようにも思える。
吉祥寺は、大坪が学生時代を過ごした思い出深い地であり、創造の起点でもある。同館において構成されるインスタレーションは、大坪の仕事の集大成であると同時に、皆さまとともに踏み出す、生へのあらたな一歩となるに違いないだろう。
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