project N 91「小林紗織」東京オペラシティ アートギャラリー

《日常の彼方 #1》 2022 サインペン,アクリル絵具,水彩,ボールペン,コラージュ,イラストボード 59.4×84.1cm

名称:project N 91「小林紗織」東京オペラシティ アートギャラリー
会期:2023年7月6日[木] ─ 9月24日[日]
会場:東京オペラシティ アートギャラリー 4Fコリドール
開館時間:11:00 - 19:00(入場は18:30まで)
休館日:月曜日(祝日の場合は翌火曜日)、8月6日[日](全館休館日)
入場料:企画展「野又穫 Continuum 想像の語彙」の入場料に含まれます。
主催:公益財団法人 東京オペラシティ文化財団
住所:〒163-1403東京都新宿区西新宿3-20-2
TEL:03-5777-8600
URL:東京オペラシティ アートギャラリー

《私の中の音の眺め》
2021
サインペン, 水彩, コラージュ, 和紙
12.0×280.0cm
「語りの複数性」東京都渋谷公園通りギャラリー展示風景
photo: Utsu Yumiko
《私の中の音の眺め》 2021 サインペン, 水彩, コラージュ, 和紙 12.0×280.0cm 「語りの複数性」東京都渋谷公園通りギャラリー展示風景 photo: Utsu Yumiko

小林紗織 音と記憶の絵画
小林紗織は、音楽を聞いたときに自分の中に浮かぶ色彩や形、情景を五線譜の上に描き出す。それは、彼女によって「スコア・ドローイング」と名付けられている.ペンやアクリル絵具、水彩、時にはコラージュを用いて生み出されるさまざまな色の帯や線は、五線譜の上をうねり、絡まり、重なったり離れたりしながら流れ、その間をさまざまな形が、リズムを刻むように並んだり弾けたりしながら進んでいく。
小林がスコア・ドローイングを描き始めたのは、2015年頃のことである。当時の小林は、大学卒業後バンド活動を行いつつアルバイトに明け暮れていた。非正規雇用での労働という経済的・精神的に不安定な状況の中、音楽は心の拠り所だったようだ。子供の頃から、音楽を聞くと頭の中に様々な色や形といった美しいイメージが浮かんでいたという小林にとって、 ヘッドホンをつけて好きな音楽を聞くことは、現実とは別の自らの内部にある美しい世界をひとり楽しむ時間であった。一方で、自分の中にあるこんなにも美しい世界が、誰にも知られないまま失われていくことを惜しむ感情が生まれたという小林は、その世界を掬いあげるように、文房具店で購入した五線譜のノートに心の中のイメージを描き出すことを始めた。閉ざされていた内側の世界は、このようにして外に向かっておずおずと開かれたのである。
音を聞くと色や形が浮かぶというのは、通常は別個の感覚として区別されてきたはずの聴覚と視覚が重なり合うことによって引き起こされる「共感覚」的な経験といえる。「共感覚」という語は、現代の心理学ではある感覚の刺激入力が他の感覚の反応に翻訳される、客観的に観測可能な現象として定義されている。一方で、歴史的には共感覚という現象自体は、連想やそれに基づく意図的なイメージ創出も含んだ、より緩やかな意味で用いられてきた[01]。視覚芸術である美術と聴覚芸術である音楽とが交差する、共感覚的な創作の例は少なくない。たとえば20世紀の画家カンディンスキーやクレーは、音楽のリズムやハーモニーを絵画の表現に取り入れることで、純粋な抽象表現を目指した。逆に美術作品からインスピレーションを受けて音楽が作曲されることもあっただろう。小林のスコア・ドローイングも、音と色や形が結び付けられた共感覚的な表現といえるが、小林の場合は、曲全体から漠然と連想されるイメージを描きだすというよりも、曲中の音に付随して浮かんでくる色や形のひとつひとつを、忠実に紙の上に描き起こしている点にひとつの特徴がある。 作品のタイトルは、多くの場合聞いていた音楽の曲名である。五線譜はタイムラインの役割を果たしており、基本的には始まりから終わりまでの一曲分が、一枚の画面に収められているという。初期は既製品の五線譜のノートを使用していたが、最近はそれ以外の支持体に描くこともあり、その場合は小林によって五線が引かれている。一般的に、絵画や彫刻は空間芸術、文学・詩・音楽は時間芸術として区別されるが、小林のスコア・ドローイングは、五線譜を導入することで、一枚の絵画としての空間的広がりを持ちながらアニメーションのような形で時間の幅や動きの要素を取り入れている。絵を見る私たちの視点もまた五線譜に沿って左から右へと動く。時間の幅を持つ音楽をタイムラインに沿って視覚的に表現するというのは、「スコア」という名前の通り記譜の方法である。もちろん小林のスコア・ドローイングはそれに基づき上演することを想定しているものではないが、私たちは小林の絵を見るとき、想像を膨らませながら、自分の中に自由に音を響かせることもできるのだ。 とはいえ、小林のスコア・ドローイングにおいては、音を色や形に置き換えること、それ自体に主眼が置かれているのではない。彼女がそれを描き始めたのは、なによりも音楽が、彼女の身近に常に寄り添うようにあったからだろう。選ばれる楽曲は、それを聞いていたときの個人的な記憶や思いと不可分のものとしてある。小林自身、「ただの音の視覚化じゃなくて,自分の内側の世界の記録だった」[02] と語っている。本展に出品されている《私の中の音の眺め》は、2021年に渋谷公園通りギャラリーで行われた展覧会「語りの複数性」において初めて発表された。この作品は、コロナ禍の一ヶ月の間、小林が自身の身の回りにある日常の音を描き留めたものである.描かれているのは楽曲としての音だけではなく、散歩の途中で聞いた虫の音だったり、あるいは共に暮らすパートナーのいびきだったり、一日一日、その日の終わりにその日聞いた音を描き留めていった集積は、最終的に28mにおよぶ長さとなった。現実から離れ自分の内側の世界へと没入する中で始まったスコア・ドローイングだが、本作において小林は自身の周りにある現実の世界へと耳を澄まし、それらを愛おしむように掬い上げている。
「どこかに残さなければ誰にも知られないうちに消えてしまう、私の『内側』にだけ存在している音と記憶の視覚化」[*03]と小林がいう絵画において、描かれたひとつひとつの音の欠片は、彼女によって丁寧に採取された、植物や鉱物の図鑑や標本のようにも見える。しかしそれらは決して静的なものではなく、それぞれが生命をもっているかのように、生き生きと躍動し輝きを放っている。
小林紗織 Kobayashi Saori
1988 神奈川県生まれ
   武蔵野美術大学デザイン情報学科卒業
   東京都在住
個展
2020 「TRIP」, 手と花, 東京
2017 「YUMENOSHIMA」, Earth+gallery, 東京
主なグループ展
2023 「Drifter」, 新宿眼科画廊, 東京
2021 「3331 ART FAIR」, アーツ千代田3331, 東京
「語りの複数性」, 東京都渋谷公園通りギャラリー, 東京
「WAVE TOKYO」, アーツ千代田3331, 東京
「エマージング・アーティスト展」, 銀座 蔦屋書店GINZA ATRIUM, 東京
「お腹まで2時間35分」, NADiff Window Gallery, 東京
2019 「絵画と音楽 次章」, gallery P, 東京
2015 「ギグメンタ2015 半芸術展」, 文房堂ギャラリー, 東京
「2人展」, ARTON, 東京
2013 「春のカド」, ターナーギャラリー, 東京
受賞 
2015 「第12回1_WALL審査員奨励賞」

《日常の彼方 #1》 2022 サインペン,アクリル絵具,水彩,ボールペン,コラージュ,イラストボード 59.4×84.1cm
《日常の彼方 #1》 2022 サインペン,アクリル絵具,水彩,ボールペン,コラージュ,イラストボード 59.4×84.1cm

関連記事

コメント

  • トラックバックは利用できません。

  • コメント (0)

  1. この記事へのコメントはありません。

ページ上部へ戻る