「時を超えるイヴ・クラインの想像力―不確かさと非物質的なるもの」金沢21世紀美術館

「時を超えるイヴ・クラインの想像力―不確かさと非物質的なるもの」金沢21世紀美術館

名称:「時を超えるイヴ・クラインの想像力―不確かさと非物質的なるもの」金沢21世紀美術館
開催期間:2022年10月1日(土) 〜2023年3月5日(日)
開館時間:10:00~18:00(金・土曜日は20:00まで)
会場:金沢21世紀美術館 展示室5〜12、14
休場日:月曜日(ただし10月10日、10月31日、1月2日、1月3日は開場)、10月11日(火)、11月1日(火)、12月29日(木)〜1月1日(日)、1月4日(水)
料金:一般:1,400円(1,100円)
   大学生:1,000円(800円)
   小中高生:500円(400円)
   65歳以上の方:1,100円
   ※( )内はWEB販売料金・団体料金(20名以上)
   ※当日窓口販売は閉場の30分前まで
   ※入場当日に限り「コレクション展1 うつわ」(対象期間:10月1日〜10月16日)及び「コレクション展2 Sea Lane – 島々への接続」(対象期間:11月3日~3月5日)にもご入場いただけます。
友の会会員について:
   予約不要でいつでもご入場いただけます。(ただし、当日の混雑状況により入場制限の可能性があります。)
住所:〒920-8509石川県金沢市広坂1-2-1
TEL:076-220-2800
URL:金沢21世紀美術館

イヴ・クライン《人体測定(ANT66)》1960年 水性メディウム、紙/カンヴァス 157 × 311 cm いわき市立美術館蔵
イヴ・クライン《人体測定(ANT66)》1960年 水性メディウム、紙/カンヴァス 157 × 311 cm いわき市立美術館蔵

本展は、1950年代から60年代に活躍したフランスのアーティスト、イヴ・クラインを中心に、イタリアの空間主義運動や日本の具体などの同時代の作家、さらに現代の作家を加えて、彼らの芸術に共通する「非物質性」というテーマを浮かび上がらせます。荒廃した戦後の「タブラ・ラサ(空虚)」ともいえる状況から、イヴ・クラインは新しい人間性を探求する作家として、彗星のごとく登場しました。彼は、作品の素材や支持体のみに依存しない、芸術の「脱物質化」を徹底的に推し進め、同時代のアーティストのみならず後世の作家たちにも多大な影響を与えています。現代の私たちは、気候変動やウイルス、インターネットによる情報環境が生み出す混乱など、無数の「見えないもの」に影響を受け、その実体が見えない不確かさの中で、多くの厄災や分断と向き合っています。本展が紹介するイヴ・クラインを中心とした革新的な芸術家たちの「非物質性」を志向する創造的探求は、今の私たちが向き合う不確かな現在を乗り越える想像力を与えてくれるでしょう。

身体とアクション / Body and Action(展示室8)
戦後のタブラ・ラサの時代、多くの芸術家が唯一確かなもの、自分の身体とアクションを通して新しい表現を模索した。柔道によって身体と精神の統合を探求したクラインもその一人である。代表作「人体測定」シリーズでは、「インターナショナル・クライン・ブルー」(IKB)を女性のモデルに塗り、身体の運動を紙に直接押し付け、見えない宇宙の現象の痕跡を定着させようとした。日本滞在時に魚拓や広島の原爆の放射熱による人間の残像(「死」の人影)を知ったことで、人間の身体が残す痕跡への関心を深めたとされている。また美術界の知人を通して、事物の具体性やアクションを作品につなげる同時代の関西の具体美術協会の活動に関心を持ち、機関紙「具体」も所有していた。白髪一雄らのアクション・ペインティングや具体の野外パフォーマンスはアクションを通じて身体と物質、空間の関係を形成する点においてクラインと多くの共通性がある。
そして、パリ郊外の家の2階の窓から彼があたかも飛んでいるような瞬間を捉えた《空虚への飛翔》は、宇宙と同化し浮遊することができるというクラインの夢である。彼は自分が空を飛べると多くの人に錯覚させるために、これを記念した偽りの新聞をパリの新聞販売店に配り、大きな話題を呼ぶことになる。空虚へと羽ばたこうとした《空虚への飛翔》は、物理的な身体の行為をもって、精神の絶対的自由という非物質的な空間と一体になるための挑戦であった。

イヴ・クライン《海綿レリーフ(青)RE-42》 制作年不詳 海綿、小石、顔料、合成樹脂/板 93.5 × 73.5 cm 滋賀県立美術館蔵
イヴ・クライン《海綿レリーフ(青)RE-42》 制作年不詳 海綿、小石、顔料、合成樹脂/板 93.5 × 73.5 cm 滋賀県立美術館蔵
音楽とパフォーマンス / Music and Performance(展示室9)

クラインが影響を受けていた薔薇十字団の思想において、音楽は霊魂であり生命の表現である。クラインはモノクローム絵画への関心と同時に、「モノトーン・シンフォニー」のアイデアを構想している。「ただ一つの音」を引き伸ばした前半と全くの沈黙による後半によって構成されたこの交響曲は、クラインにとってのモノクローム絵画と空虚の表裏一体の関係を、単和音と沈黙によって音楽形式を通して示しているといえるだろう。クラインは、ドイツのゲルゼンキルヒェンに新しく建設されるオペラハウスの壁画制作も依頼されている。その大壁画に用いたスポンジのレリーフも、音と空間の関係に対する一つの表現といえる。
また、1960年3月9日に行った人体測定プリントの公開制作では、オーケストラによる「モノトーン・シンフォニー」の演奏を指揮した。正装した100人余りの鑑賞者が見守るなか、クラインはタキシードに白のネクタイという格好だった。オーケストラとモデルのパフォーマンスの双方を指揮しつつ、自らは指先ひとつ汚さず作品を制作することで、身体(生)と空虚の関係を演出したのである。これらをはじめ、1001個の青の風船を空へ放つ《気体彫刻》など多くのパフォーマンスはいずれも儀式性を持ち、人間の生と虚の関係に働きかけることにより高次の存在へと昇華しようとする意図が通底している。同様に、空に風船を浮かばせることで、空を展覧会場とした具体の『国際スカイフェスティバル』(1960年)とは、「浮遊性」や「空という展示空間」という考え方において共通するだろう。

イヴ・クライン《無題(火の絵)》 1962年 焼いた段ボール/パネル 41 × 33 cm イヴ・クライン・アーカイブス蔵
イヴ・クライン《無題(火の絵)》 1962年 焼いた段ボール/パネル 41 × 33 cm イヴ・クライン・アーカイブス蔵

火 / Fire(展示室10)
クラインは素材や制作手段として「火」を用いる作品も多く制作している。ガスバーナーで燃やした絵画面をすぐに水で消化する「火の絵画」はその代表例である。同時代の多くのアーティストも火への関心を持っていたが、クラインは絵画表現で火を用いた芸術家の最初の一人として考えられ、プラスチックをバーナーで燃やすアルベルト・ブッリやクラインとも親しかったルーチョ・フォンタナらが大きな影響を与えることになるイタリアのアルテ・ポーヴェラ(貧しい芸術)の運動にも先駆けるものであった。
また、クラインは、建築家ヴェルナー・ルーナウとの「空気の建築」の構想の中でも火を重視していた。火は同時に都市や社会の象徴であるとも考え、この「空気の建築」の計画の中で唯一実現したのが、1961年に自身の回顧展に合わせハウスランゲ美術館の中庭に制作した「火の壁」である。錬金術や薔薇十字団においても火は重要な要素であり、また生命の源であるとされているが、非物質的な現象の痕跡を残そうとするクラインの一貫した姿勢が火の表現の中に見て取れる。

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