アレキサンダー・ トヴボルグ「Beyond Devotion」BLUM & POE

アレキサンダー・ トヴボルグ「Beyond Devotion」BLUM & POE

名称:アレキサンダー・ トヴボルグ「Beyond Devotion」BLUM & POE
会期:2022年5月21日(土)~2022年7月2日(土)
開館時間:12:00 〜 18:00
休館日:月曜、日曜、祝日 事前予約制
オープニングパーティー:2022年5月21日 18:00 から 20:00 まで
入場料:無料
会場:BLUM & POE
住所:〒150-0001 東京都渋谷区神宮前1-14-34 原宿神宮の森 5F
TEL:03-3475-1631
URL:BLUM & POE

Alexander Tovborg, scorpio madonna with sunflower, 2021 Canvas, pastel crayon, and acrylic on wooden panel 80 1/8 (diameter) x 2 7/8 inches framed Photo: Hayato Wakabayashi
Alexander Tovborg, scorpio madonna with sunflower, 2021 Canvas, pastel crayon, and acrylic on wooden panel 80 1/8 (diameter) x 2 7/8 inches framed Photo: Hayato Wakabayashi

Blum & Poe (東京)では、コペンハーゲンを拠点とする作家、アレキサンダー・トヴボルグによる当ギャラリーで四度目となる個展「Beyond Devotion (愛を超えるもの)」を開催いたします。
本展では、アレキサンダー・トヴボルグがこれまでに取り組んできた、歴史的なアーキタイプの形態について、より深化した取り組みを紹介いたします。本展を構成する彫刻や絵画作品の中においては、キリスト教、神秘主義、神話、占星術、植物学といった分野に関連した象徴的モチーフへの言及が行われています。時系列、世俗性、科学、自然主義といった様々な制約から解放されたトヴボルグの実践は、異種的で象徴的な領域を自由に行き来していると言えるでしょう。
トヴボルグが描く、キリスト教的イコノグラフィーは、作家の複雑で独特な視覚言語へと鑑賞者を誘う入り口であると同時に、教会の家父長的な歴史を批判し、揺さぶりをかける役割を果たしています。パステルとアクリルによって子を抱く母親の姿を描いた「dea madonna with rainbow crown (night)」(2021)は、最もよく知られたキリスト教のイコノグラフィであるイエス・キリストを腕に抱く聖母マリアを描いた聖母子像への作家の傾倒を示しています。しかしながら、トヴボルグの描く聖母子像では、幼いキリストではなく、古代神の娘である「デア」が描かれています。ここでは、デアがキリストに置き換わるという、キリスト教の主要なナラティブの反転的なイメージの再構築が行われているのです。
さらに、「dea madonna」のシリーズは、ヴェネチア派やルネサンスの作家ジョヴァンニ・ベリーニの作品群の中で描かれてきた伝統的なイタリアの聖画像を参照しています。聖画像の力は、スピリチュアルな働きによってもたらされます。それは、神を宿した癒しのためのオブジェであり、敬虔な信者に安らぎと安息をもたらすのです。宗教美術と関連するオブジェについての作家の関心は、凹形の王冠を身に付けた女性を象った彫刻作品「dea madonna as baptismal font」(2021–2022)にも表れています。カトリック教会の7つの秘跡の一つで用いられる儀式のための器である洗礼盤(baptismal font)を鉄製の彫刻として成立させたこの作品のタイトルもまた、直接的な関連を伝えます。
トヴボルグは、これらのキリスト教的な象徴に加えて、神秘主義、神話、占星術といったより深遠的な題材にも取り組んできました。絵画作品「dante as dinosaur withsunflower」(2021)や彫刻作品「dante as dinosaur with tulip」(2021–2022)では、観る者を取り込んでしまうような神秘的な佇まいをしたモチーフが登場します。そこで描かれているのは、ギリシャ神話のケンタウロスを想起させるような、少年の上半身を持ち、恐竜のような下半身をした像です。トヴボルグの半人半獣的なモチーフへの関心は、色彩の渦と共に女性の身体にサソリの尾を持った肖像を描いた「scorpio woman innature」(2021)にも明確に見ることができます。また、「scorpio madonna withsunflower」(2021)と「the scorpio madonna」(2021)では、毒尾の節と女性の髪飾りが視覚的にリンクするようなディテールをもって描かれています。さらに、これらの作品タイトルは、占星術についての参照を伝えています。トヴボルグが描く「さそり座」の女性とは、彼の伴侶のセシール・トリエであり、その星座の占星的な資質として形容される、創造性、秘密主義、愛する者への忠誠心といった要素についての連想もそこには込められています。
ひまわりの花という植物に関する象徴もまた本展を構成する作品群に登場するモチーフです。「sunflowers of Fukushima」(2021)で描かれた花は、日本人が持つ創造の力や、植物に込めるある種の信仰心といった日本文化について抱く作家の敬意の表象です。トヴボルグは、福島での原発事故の後、地元の人々が放射能物質によって汚染されたその土地を浄化の力を持つひまわりに願いを託し、その花を植えたというニュースから着想を得たと言います。ひまわりが持つ癒しの潜在的な力は、「dea madonna」のシリーズにおいても中心的な象徴の役割を果たします。大事に、また崇めるようにその手にひまわりを抱く聖母の像は、まるでその再生の力を十分に知っているかのようです。作家にとって、ひまわりは聖画像と同様に、癒しの力を与えるものについてのシンボル
なのです。
これらの作品群の中で、トヴボルグはもっとも身近な人々、すなわち家族についての創造的な探求を行っています。すなわち、その作品との対峙は、作家の家族にまつわる私的な体験の一端を垣間見ることを意味します。さらに、トヴボルグが絵画作品の支持体に用いるベッドリネンというメディウムもまた意味を与えています。ベッドリネンという素材は、その作品に直接的にも、寓意的にも新たなレイヤーを付与しています。一方で、多くの作品に特徴的な、明るい色彩や、褐色のアースカラーは、太陽下で感じる視覚と似た印象を与えます。このような色彩の広がりは、白んだような感覚を与え、像をうまく捉えることができない、太陽の光の中で目が眩んでしまうような視覚的効果を生
んでいます。そして、そのまばゆい光は、作家が家族へ注ぐ果てしないほどの優しさ、慈しみ、配慮といった感情の象徴なのです。トヴボルグは、歴史的な神についての多様な解釈を引用しながらも、自身の家族を中心に据えることで、土着的なイデオロギーを生み出しています。太陽が絶えず射すトヴボルグの作品のイメージ群に視線を向ける我々は、まるで光にその身を傾けるひまわりになったかのようです。

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