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釈迦本生譚 2009年9月23日更新

釈迦本生譚

【和:
【中:
面白テーマ|彫刻・書画|>釈迦本生譚

東チベット
17世紀後期-18世紀前期
綿布着色
66×42cm
ジョン・ギルモア・フォード・コレクション
春のような雰囲気に満ちた、この愛らしい絵画には、釈迦牟尼の前生を語る五つの場面が描かれている。繊細にぼかしの入った淡い緑が、絵に斜めの奥行感を与え、川や、層状に描かれた岩、青色の絶壁、宮殿、雪山などの点在する、新緑におおわれた起伏のある丘の牧歌的な光景が描かれている。人物は、現実的な大きさに濃淡の色を混ぜながら描かれ、それぞれの場面に展開しているできごとの劇的な状況にもかかわらず、全体として楽しげな調子を加えている。仏陀は風景の中の、後ろのほうに移されている。触地印を示し、カラフルな明るく鮮明な赤、オレンジ、ピンクの衣を着ている。きらびやかな台座に座り、二重の光背と、大きく透明な霊気に囲まれている。
 中央の仏陀を含むすべての要素が、風景の中に、もはや別々に分けられないほどよくまとめられている。それにもかかわらず、仏陀を囲む五つの場面はそれぞれの空間の中にうまく配置され、概して、いくつかの場面が合わさって、物語の筋の運びが循環するという型になっている。それぞれは、ほかの場面から、自然に見えるけれども実際は何ともいえず不自然な岩や川や木々が集まって、離されている。ここに描かれた本生譚は、アールヤシューラ作の≪ジャータカマーラー)のジャータカ(本生譚)の第24から28話(図参照)である。
 1)場面は左上部の、大猿であった菩薩の話からはじまっていることが、大きな岩に記された銘文によってわかる。男が木から流れの速い川に落ちてしまったのを、猿はまず人間の重さに等しいと思われる岩を試しに背負ってみてから、男を助けた。猿はその男に食べ物を与え、岩の上で横になって休息をとる。猿が眠っている間に、男は猿を食べようと大きな石で殺そうとする。彼はのちに王に会い、猿の恩を裏切ったことの悔恨と、その罪の応報を受けて、世間からのけものにされるという悲惨な運命を導いたことを語っている。
 2)右上部は、シャラバ鹿本生(水の近くの土手に彫られた銘文によって判明)があらわされている。王が美しい鹿を射止めようと追うと、逃げる鹿は峡谷を飛び越した。王の馬は飛び越すことができずに、王はとても助からないようなところから峡谷に落ちてしまう。シャラバ鹿は王を哀れに思って助け、王が感謝している。
 3)中央部を横切って展開しているのはルル鹿本生である。ルルという鹿が、川で溺れかかっている男を助ける。のちに、その男は王を鹿が隠れている棲家に案内してしまい、その鹿のことを指さそうとしたその時、右手首が切れて落ちた。のちに王は、鹿から事の次第をすべて聞いて、密告した裏切り者の男を射殺しようとしたが、鹿は王をとりなし命乞いするのであった。ルル鹿は、シャリオット(四輪軽馬車)に乗せられ宮殿へ招待され、そこで、旋律の美しい人間の声で、教えを説いたのであった。
 4)下部左は大猿本生が描かれている。猿は美しいベンガルボダイジュ(バンヤンジュ)という果樹にいて、今にも射られようと狙われている。猿の王は、みずから体を支えて橋を作り、ほかの猿を助けることができたが、この命がけの行為に感動した王が布をかざさせ、その上に疲弊した猿は落ちた。猿の王は死ぬ前に、王に対して、臣下に対する統治者としての徳の高い心を教えた。
5)下部右にはクシャンティヴァーダンの話(これも゛忍辱の聖者″という意味の銘文があることによって判明)である。遊びを満喫した後、王は遊園で眠っていた。王の後宮の女性たちが庭を散策したところ、洞窟に座す苦行者に出会い、その教えを受けている。王は、妃たちが苦行者と共にいるところを見つけ、かっとなって、行者の手足を切断したが、苦行者は死のときも平静を保ったのである。
この絵は、多くの場面を人物と合体させたチベット様式の風景画の、到達点をあらわしている。このスタイルは、おそらく東チベットのカルマ・ガディ派によって発展したものだが、いくつかの中国画の要素、特に明代(1368-1644)の、例えば層を重ねた青い岩や様式化された水波のパターンや、明るい青緑色で描かれた葉が密集した木々のような、よく知られた要素も加わっている。本図はセットのうちの1点で、本図のほかに、フォード・コレクションとボルチモアのウォルタース・アート・ギャラリーに6点あるが、特にこれらで興味深いのは、丘や岩を繊細に形作っている波打つ皴法である。花木や極彩色の建築物などは、明代の中国の仏画にみられるものだが、同時にインドの17世紀ムガール朝の絵画とも非常に近いものである。出所:天空の秘宝チベット密教美術展 2009.09.19更新
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