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インドの学僧ガーヤダラ、サキャ派の・冷者 2009年10月9日更新
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チベット中央部、おそらくツァン地方
16世紀後半
綿布着色
78.8×66cm
ツィンマーマン・ファミリー・コレクション
この保存の良い絵画の下端にはチベット語の銘文があり、このラマがガーヤダラであることを知らせる。ガーヤダラはカシミール人の祖師である。そして先師であり、サキャ派創立者のひとりであるドクミ訳経官(992-1072)の重要な指導者であった。
この図に描かれたガーヤダラは、右手を説法印に結び、左手は水色の裏地がついた青地に文様染めの布で包んだ書物を持って膝に載せている。頭には繊細な幾何学的文様の列がある紅い帽子を被り、その垂れ飾りが両肩に垂れている。花模様を染めた彼の赤い内衣は、広い黄色の帯で締められ、緩やかに波打つ白い外衣は、その重さに従って彼の身体の上や周りにうねるような衣のひだを形作っている。この絵を描いた画家は、熟練した素描家としての技術を、書芸的な衣文線の美しさのなかにあらわした。足の下、衣の縁にある渦巻状のパターンにみられるようなタッチは、他のすべての点できわめて幾何学的で形式的なこの絵画の性格に、幻想的な魅力の徴かな光を加えている。
ラマの顔は柔らかく温和で、微かに笑みを浮かべた生真面目な茶色の目で、絵を見るものを直視している。面相を形作る確固とした色彩の純粋さとほの暗い色調の描線によって、その顔はきわめて二次元的なものにみえる。やや形式化しながらも精妙に描かれた伝統的な陰影法による唐草文様を配した青と緑の光背にみられるように、像の残りの部分についても、こうした描き方で、同一の平面上に完璧に様式化されたパターンが形成されている。同様の陰影法による文様は、ラマの背後にある後背装飾の赤い地の部分にもみられる。この作品が作られた時までには、このタイプの後背装飾の背後部分は、その時代に流行したモチーフとなっており、この絵にみられるのと同様に花瓶の形をした台座から伸びる2段にな った柱で支えられ、先端の尖ったアーチ状へと単純化されたものがしばしば描かれた。
ラマの背障の周りを取り囲む暗青色の平塗りされた地は、整然と列をなす生き生きと描き出された42人の人々によって埋め尽くされている。すべての像が各自の光背をもち、チベット語で書かれた名前のラベルがつけられている。この精密な素晴らしい絵画の赤く塗られた四辺は花房で飾られている。
このタンカの裏面にはチベット語の祈願文が記されている。大小のすべての像は、真言「オーム・アーハ・フーム」を背面にもっており、それはその図像のなかに仏の身口意が在ることを象徴している。そしてピラミッド状の奉献された真言と以下の敬虔な仏教詩が裏面に記される。「全てのものに因果がある……云々」「仏の教えに心を従わせよ……云々」「身口意を制御するのが最上の誓約……云々」。そして最後に大黒天、毘沙門天、ジャンバラジャーレンドラ、ヴァスダラーに捧げる真言がある。
パルやその他の人々が指摘したように、この絵はサキャ派のラマたちを描いた組作品のなかの1点てあると思われる。こうした組作品に属するタンカは数多く知られており、例えばジョン・ギルモア・フォード夫妻やマイケル・ヘンス、ロサンゼルス・カウンティ美術館のコレクションなどに作例が見いだせる。インド・ネパールの様式的伝統との関連を示しつつ、チベットにあまねく根付いていたこの絵のスタイルは、この絵がチベット中央部に由来することを示している。この絵はおそらくツァンから来たものであろう。特にツァン地方の多くのサキャ派寺院と関連する自派においてみられるこのスタイルの伝統は、数世紀にわたってこの地域で保持されたのである。出所:天空の秘宝チベット密教美術展
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