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十一面千手観音 2009年11月1日更新

十一面千手観音

【和:
【中:
面白テーマ|彫刻・書画|>十一面千手観音

西チベット、グゲ地方
15世紀後半ー16世紀前半
綿布着色
96.5×72.4㎝
個人蔵
慈悲の菩薩、観音を描いたこの上なく美しい本作品は、あらゆるチベット美術の中でも、最も美しい絵画のひとつとして知られている。それは、最高に強力な王者の形として、十一面、千眼、千手を備えた、想像できないほどの深い慈悲の権化としてあらわされている。チベットの礼拝者は共通して次の言葉でこの尊像に挨拶する。「聖なる観音様、貴方は千の世界の千の手を持ち、この善が悠久に続く千の仏陀の世界の千の眼をお持ちです。そして、貴方が現れた所では、すべてのものが従います。」
 観音は正面を向いて立ち、画面の中央軸の大部分を構成している。千本の腕をぎっしりと配列した様は、高貴な白い体を囲む大きな光背のようである。また、渦巻き状の花の飾りのある寺院内部の暗赤色の背景と白い光背状の手は対比をなしている。主要な八臂は菩薩の大事な象徴物と基本的な印を執る。右手は数珠と輪宝を持ち、与願印を結ぶ。左手は白蓮華、弓矢、甘露の入った水瓶を持ち、中央の二手は胸前で、如意宝珠を掌中にして合掌する。白い雲の模様と暗青色の線が大った赤い天衣は、背から両肩に回して広げ、延ばした左右の腕にだらりと弛みを造って懸けている。横縞と模様の入った腰布は、金の帯で腰の低い位置に留められている。薄い金の装身具は足、胸、腕、頭を飾っている。左肩の上には、この菩薩が自然の中で苦行したことを思い出させる白い玲羊の皮が、繊細な線描で表現されている。
 主尊の両側には、中位の大きさの脇侍が2人、1人は橙色、他は青色で、観音と一緒に広い寺院の中に三尊形式で立っている。少しぎこちなさを残しながらも、リラックスして優美に立つ2人は、主尊のかっちりとした姿勢とは対照的に、いきいきとしている。脇侍の横には、寺院の柱が立っている。素晴らしい造形の円柱は八つの円形をもち、その中には多臂の尊像が描かれている。柱から突き出た軒の間には、天上の動物や生き物がいる。両柱の下の軒の外側には大食鬼夜叉が柱に寄り掛かっている。夜叉は柱を支えるため全力を出しているかのように、顔を歪めている。柱の上には下腹部を赤くした暗青色の海の怪獣摩謁魚が、大口を開けた鰐の形をした頭を持ち上げている。そして、寺院のアーチ型の入り口を形造るように、意匠を凝らした金銀の細い線で造ったような羽形の尾を翻らせている。そのアーチの頂点ば栄光の顔″(キールティムッカ)で締めくくられている。頂上のそばには、2人の白色の龍女(ナギニス)が、太く曲がりくねった体を、アーチに巻きつかせている。龍女は、観音の頭に積み服ねられた一番11の仏陀の顔を礼拝しているように見える。龍女のやや後下には2人の守護尊がいる。左がヘーヴァジュラ、右がサンヴァラである。アーチの周りの空間には、吉祥の象徴や雲が漂っている。右の摩竭魚の横には、雪獅子に乗った小型の獅子吼観音がいる。上部の左右のコーナーには選ばれた神やラマ憎が描かれている。中央よりの最上郡にはすべての仏陀の根源である青色の執金剛がいる。面白いことに、左側の空間にはラマ僧達の中にカギュ派の憎が描かれていて、その中にはマルパ、ミラレパ、ガムポパがおり、右側の上列にはゲルク派の僧がいて、そこには、本と剣を持ったツォンカパと2人の黄帽を被ったラマ憎があらわされている。西チベットはカギュ派が強く支持されていたが、15世紀中期以降はゲルク派も受け入れられるようになっていた。この作品は、おそらく寄進者が両派と融和的な関係を持っていたため、意識的にこうした表現になったのだろう。
 下の部分は、寺院の水平な基壇ではっきりと分けられている。基壇は、繊細で多彩色の開敷蓮華の花弁の上に乗っている。花弁の下には渦を巻いた蓮華の技があり、その中に挨拶の身振りをしている男女の乾闥婆と二つの開敷蓮華が描かれている。
左下には寄進者の一団がいる。ほとんどが女性で、その前にいるラマ僧は供え物をしている。そのすぐ右には財宝神で護法尊のクベーラ、続いて毘沙門天がいる。下部のその他の部分は、もっぱら守護尊や護法尊を精巧に描くことに没頭している。それらは、物凄い気味と技巧を伴った精密なやり方で、細かく彩色されている。下部上段は左から右へ、緑ターラー、秘密集会の阿閦金剛、中央を横切って、ヤマーンタカ、白ターラーである。中段は左から、三面六臂で橙色の女性尊、おそらく大陸求菩薩(マハープラティサラー)だろう、次に二臂で白色の女性尊、たぶん白傘蓋仏母と思われる。その次が阿弥陀(無量寿)である。右に移って、光背を負う僧(尼僧かもしれない)、シンハヴァクトラ、端が橙色の馬頭である。最下段は、前記の寄進者、供物、クベーラ、毘沙門天が左から並び、次に白色の仏頂尊勝母、四臂の大黒天、立っている六臂の大黒天、ペンデン・ラモ、冥府の王の大黒天、最後が閻魔天である。
 もとトゥッチ・コレクションにあったこのタンカは、グゲ・ルネサンスのグループの中では、珍しい菩薩の絵である。様式的には西チベットのツァパランにある紅の寺と白の寺の壁画と関係がある。とはいえ、16世紀前半の白の寺のものより、形式化は少ない。彩色では、初期グゲ・ルネサンス期の最も典型的な絵画で使われた色を利用している。それは暗赤色、青、柔らかな紫、明るい橙色、真珠色である。描線は少し自由で気ままなところもあるが、安定して、きびきびした確かさがある。出所:天空の秘宝チベット密教美術展 2009.09.19更新
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