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ゴツホ美術館(オランダ) 2009年7月31日更新
【和:ゴツホびじゅつかん】 |
【英:Rijksmuseum vincent van Gogh】 |
研究機関|>ゴツホ美術館(オランダ) |
アムステルダムの空港からタクシーでニ十分、国立美術館や市立美術館と並んで建つゴッホ美術館に着く。まわりの赤煉瓦の古い建物の中で、ここだけが四角い近代建築であるが、一九七三年に建てられて以来次第に落ち着いた雰囲気になり、周辺との違和感はほとんどない。
ガラス張りの広くて明るいロビーに入る。中央が吹き抜けになっているので、どの階にも天井からの自然光が射し、柔らかい光の空間を生んでいる。一階が一八八〇ー八七年の作品、二階が一八八七ー九〇年の最晩年の作品、三階がデッサン、四階がゴッホと友人遠の作品と、整然と分けられている。
ロビーの左手に展示室がある。展示の始まりは暗い作品が多く、農夫や農家を題材としたものや、バリに住む弟テオの家から見た風景、アントワープの彼の家からの風景など、写実的でおとなしい絵である。ニ十点ほど飾られている中で、一八八五年五月に描かれた「タ暮れの農家}は救いようのない寂しい感じで強く心に残った。
すべての作品の下に簡単な説明がついていて、初めて見る人にもわかりやすく親切である。一八八五年九月から十月にかけて描かれた「馬鈴薯を食べる人々」は、この時代の代表作となっている。
二階へあがると、晩年のゴッホの世界が広がる。一八八七年から九〇年の四年間、珠玉の名品を描き続けた。
オーヴェール・シュル・オアーズ、アルル、ヌエネン、サン・レミ、そしてパリ時代の三十数点。特に印象に残ったものを拾ってみると、まず自画像では「画架の前の自画像」が素晴らしい。このバリの時代にゴッホは二二点の肖像画を描いている。アルルでは二三人のモデルで四六点の肖像画を、ヌエネンでは五十人の農民を描いているが、ゴッホは人間の存在、人間そのものに最もひきつけられた画家である。 また、友人ゴーギャンを思って描いた「コーギャンの椅子」(「ゴッホの椅子」はロンドンのナショナル・ギャラリーにある)は、空っぽの椅子にたとえようもなく寂しいゴッホの心情がにじみ出ている。
ゴッホの晩年の絵には黄色と青が多いのに気づく。どちらも濁らない美しい色として使われている。黄色は純粋な光や愛情を示し、青で夜空のような不安をゴッホは表現したかったという。また、赤と緑は人間の恐ろしい情念の表現であった。
浮世絵から主題を得た「花咲く梅の木、広重より」や「花魁、英泉より」などは、浮世絵をすばやく消化して、かつ浮世絵の庶民的な味わいを残しながら、ゴッホの情熱的な色彩とタッチを調和させている。
三階は二階とは異なり、吹き抜けのまわりを壁で仕切り、薄暗い照明にしてデッサンを展示している。「包帯を巻いた自画像」(コートールド美術館に本画がある)のパステル画や「種蒔く人」など力強い素描力を感じさせる。
次のコーナーは水彩画で「ぶどう畑と農夫」の青のインクが美しい。この階に弟テオの夫人の肖像とその息子の肖像彫刻が置かれている。この二人によってこの美術館は、一九七三年に開館されたと記されてあった。テオの夫人は、テオとゴッホの手紙を一九一四年に初めて刊行した人でもある。
四階では、ゴッホに縁のある人達の絵が飾られている。ミレーの「種蒔く人」や「羊飼い」「麦を刈る農婦」などの九点が面白い。ほかに、ベルナール、モンティセリ、レンブラントやロートレックの作品がある。
こうして、三十七歳という若さでこの世を去った一人の天才の作品を数多く見てくると、死ぬ前の四年間の作品群にはゴッホの生命の強い燃焼が感じられる。
ゴッホ美術館の自然光の空間の中で静かに収まっている作品群は、ゴッホの人生であり、哲学であり、ゴッホの生命そのものだったと思う。出所:『美術館へ行こう』長谷川智恵子
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