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ペ口・ムアー美術館(スペイン) 2009年8月1日更新
【和:ペ口・ムアーびじゅつかん】 |
【英:Museo Perrot‐Moore】 |
研究機関|>ペ口・ムアー美術館(スペイン) |
スペインの北部、カタロニア地方にカダケスという小さな村がある。小高い山を背に美しい海岸をもち、スペイン特有の赤い屋根と白い壁の家が並んでいる。人口わずか千三百人余りという静かな村である。この村には、かつて世界の美術愛好家たちの熱い視線を浴びたサルバドール・ダリが住み、そして世界でも珍しい版画だけの美術館がある。
この版画だけの美術館、ペロ・ムアー美術館は、十五世紀から今世紀までの貴重な版画二千点を所蔵し、常時五百点が展示されている。この美術館は一九七八年、海に面した広場に開館したが、展示面積を広げるために海岸から三百メートルほど入ったところにあった劇場を改築し、一九八七年に新しく開館した。劇場は一九○五年に建てられたもので、この小さな村では近年には活発な公演も計画されなくなっており、このさびれた建物を美術館として再生させたのである。
入口を入ると、もとの劇場ホールが「ダリの劇場」になっている。約百点のダリのデッサンと油彩画、彫刻が置かれている。荘厳な雰囲気の中にユーモアかおり、いかにもダリらしい空間である。ここは一般にも開放され、申し込めば会議にも使えるとの説明であったが、会議を開催したらダリが真っ先に登場してきそうである。
二階へ行くと、中央に古めかしい小型のバスが置かれていた。その中になんとダリとガラ夫人がいる。後ろの座席にはミロやマルセル・デュシャン、ロルカなどのダリの友人たちが乗っている。すべて蝋人形であるがリアルで迫力があり、一人でこの空間にたたずむのはちょっと気味が悪い。ここには百五十点ほどのダリの作品が置かれている。ほとんどが版画であるが、ダリの世界に充分に触れることができる。この美術館を始めたのはダリの秘書を長年務めたピーター・ムアーで、彼のコレクションから成っている。奇行の多かったダリのそばにいた人だけあってダリの好みそうな展示になっている。
三階へあがると、最初はピカソの部屋になっている。五メートルぐらいの高さの「トロ」(牛をモチーフとした垂れ幕のような作品)が二点あり、強烈に目に入る。その他デューラー、ルーベンス、ファン・アイク、ラファエロの版画に始まり、ティエポロやワトーの版画もある。ゴヤの版画は全部が展示されていないが四十点近くあるという。ドガ、アンソール、ロートレック、ボナール、デュフィ、スゴンザックらの版画もあった。マチスやコクトーも印象に残った。このほかレジェ、ルオー、ピカソ、クレー、キリコ、デュシャン、マッソン、マグリット、マン・レイ、ジャコメッティ、アルマン、ミロ、タピエス、セザール、クールベ、ブラック、ムアと豪華な顔ぶれのコレクションである。これらすべてを展示できないので、時々陳列替えをしている。
版画のジャンルで近代絵画の流れを見せてくれる貴重な美術館といえる。これらの作品が油絵なら、ルーヴル美術館へでも行かないかぎり見ることはできないであろう。版画といえどもこれだけの巨匠たちの作品群は見応えがあり、楽しいものであった。
地下はカフェテリアとなっていて、版画芸術を満喫したあとにちょっと一息入れるのによい。また、隣りはホテルになっている。カダケスの青い空と海、のんびりとした海岸線の風景の中で都会の喧騒を忘れるのも心地よいひとときとなるであろう。出所:『美術館へ行こう』長谷川智恵子
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