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国立ロシア美術館(ロシア) 2009年8月4日更新
【和:こくりつロシアびじゅつかん】 |
【英:Russian Museum】 |
研究機関|>国立ロシア美術館(ロシア) |
国立ロシア美術館はサンクトペテルブルク(旧レニングラード)にある。モスクワのトレチャコフ美術館と共にロシア美術を代表する美術館である。ここでは、一九一七年のロシア革命を境に、それ以前の画家をロシア作家、以後の画家をソビエト作家と呼んでいる。トレチャコフ美術館が移動展派などの作品が多いのに対し、ロシア美術館はアバンギャルドのコレクションが多い。
トレチャコフ美術館は個人美術館として発足しているが、ロシア美術館はロシアの最初の国立美術館として一八九八年、当時の首都ペテルブルクにアレクサンドル三世に捧げる目的で造られた。当初は、エルミタージュ美術館にあったロシア美術部門が移されたが、革命後はペテルブルクの大貴族たちのコレクションや一九二〇年に美術アカデミーのコレクションも加えられて、膨大なコレクションが形成されていった。
現在、三十七万点の所蔵品をもっているが、残念なことに展示スペースが狭く、その一パーセントも飾られていない状態である。スペースの拡張案が検討されていたのだが、一九九一年からの政変で、現在どうなっていることであろうか。近くにある建物も、将来はこの美術館の一部になる計画であった。そうなればたくさんの作品の公開も可能になろう。
主なコレクションは十二ー十八世紀のイコン、十八-十九世紀の肖像画、ロシア・ソビエト絵画、素描、版画であり、そしてカンディンスキーやマレーヴィッチなどのロシア・アバンギャルドの最大規模のコレクションがある。ロシア絵画では、人民の生活を描いた移動展派のレーピンの名作「ヴォルガの舟人」の力強さやクラムスコイの「シーシキンの肖像」の穏やかな眼差しなどが印象に残る。六メートル以上もある大作もいくつかあり、迫力充分である。
マレーヴィッチは、遺族からの寄贈を含めて約百点の作品がここにある。彼は一八七八年、ウクライナのキエフに生まれた。初期のころの作品は、当時、フランス絵画がモスクワで展示されたこともあって、印象派の柔らかい画風だが、中期からは「ダイヤのジャック派」に参加して、キュビスム、絶対主義を経て構成主義の作品を発表していった。人物、風景、静物を簡略化し、巧みに画面を処理している。鮮やかな色彩の中に、厳しさと激しさを秘めた作品は魅力的である。
一九二三年のベニス・ビエンナーレにも出品したが、革命が進行していく中で、次第に芸術への抑圧と迫害は強くなっていった。一九二九年、ドイツで「マレーヴィッチ展」が聞かれた後、その一部がソビエトに戻った。が、当時の政府としては認めたくない画家であったので、非合法的にロシア美術館に保管されることになった。マレーヴィッチの晩年は、旧レニングラードの芸術文化研究所からも追放され、やむを得ずロシア美術館で一時期働いていたこともあったという。彼は一九三五年、五十七歳でこの世を去ったが、ペレストロイカのお陰で再評価され、モスクワやサンクトペテルブルクで大きな個展も開かれ、モスクワ郊外に記念館を造ろうという動きも出てきた。嬉しいニュースである。
その他、シャガールの初期の作品「散歩」「赤いユダヤ人」などもこの美術館で見ることができる。シャガールもロシアに生まれ、革命後亡命した画家である。晩年の愛と夢のテーマの作品に比べ、初期のシャガールの作品はもっとロシア的で強くて面白いエネルギーを感じさせる。
一パーセントの所蔵品しか見られないとはいえ、何十室かの展示室にある名品の数々は、充分に訪れた人々を楽しませてくれる。
出所:『美術館へ行こう』長谷川智恵子
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