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レーマン・コレクション(アメリカ) 2009年8月5日更新
【和:レーマン・コレクション】 |
【英:The Metropolitan Museum of Art, Robert Lehman Collection】 |
研究機関|>レーマン・コレクション(アメリカ) |
外国の美術館を訪ねていつも驚かされることの一つに、美術品を収集する個人コレクターの規模の大きさである。自宅に飾られていた個人コレクションがそのまま立派な美術館になっているものもあれば、国立の美術館に大量に寄贈されているのもよく見かける。
ニューヨークのメトロポリタン美術館にもそのような寄贈作品が多く、レーマン・コレクションもその一つである。ロバート・レーマンは、銀行、航空会社、石油会社を経営していた人で、その父フィリップも美術に関心があり、早くから初期のイタリア絵画を集めていた。
一九六六年十二月、メトロポリタン美術館館長となって間もないトーマス・ホーヴィンはこのレーマン・コレクションに驚き、寄贈してほしいと申し出た。それから約一年後にレーマン父子の七十年間にわたる素晴らしい収集品はメトロボリタンに寄贈されることになった。
こうして寄贈された作品は今、菱形の明るい空間の中で静かに訪れる人を待っている。メトロポリタン美術館に入って一階をまっすぐ進み、西ヨーロッパ美術を過ぎると、大ホールの向こうに「レーマン・コレクション」の人口がある。ロバート・レーマンの写真と肖像画が掛けられ、中に入ると今までの大美術館の薄暗いイメーージから急に明るい広場へ出たような感じがする。ベージュ色の大理石の床にグレーの絨毯、天井からの光が穏やかにすべてを包んでいる。展示場の真ん中が地下から吹き抜けになっているので、空間をより広く見せている。この吹き抜けの周囲が回廊になっていて、ここにはフランス絵画が主に展示されている。
左側はコローの「ディアナとアクタエオン」の大作から始まる。ゴーギャンの「水浴するタヒチの女」、ゴッホ「マダム・ルーランとその赤ちゃん」はそれぞれの代表的な時代の作品である。ドガの珍しい風景画、ヴュイヤール「縫物をしている女のいる室内」もいい。ヴァラドンとその息子ユトリロやヴァン・ドングンもある。ルノワール「ビアノのそばの二人の少女」はいつ見ても飽きない楽しさと柔らかい雰囲気が漂っている。シャガールの期の作品「バスク橋とエッフェル塔」の次にはバルテュスの大作「マテルの前の人物」で、この回廊は終わりである。回廊のまわりに八つの部屋があり、これらの部屋はレーマンの自宅を再現したものである。
右側の部屋から見ていこう。ここはモスグリーンの部屋で、イタリアの十四世紀の作品群である。ほとんど宗教画である。レーマン家の食堂が再現された部屋もある。十七世紀のオランダのシャンデリアに赤とグレーの大理石の床、ゴシック・スタイルの窓、紺色の椅子、美しい絵皿というインテリアで、すてきな食堂である。その隣りは回廊につながるコーナーで、セザンヌ「木のある風景」、ドガ「農婦の踊り」のパステル画、ドンゲン、ボナール、マチスのフォーヴ時代の作品などがある。また、アイボリーの椅子のセットが置かれたうしろの壁面には、アングルの「ブログリー公女の肖像」がある。次の部屋は、「赤いベルベットの部屋」と呼ばれ、レーマン家の部屋の雰囲気を最もよく表している。ここには十五世紀イタリア絵画が飾られている。その次の部屋は居間であったところで、十六世紀のイタリアの大理石の暖炉があり、十七世紀のオランダのシャンデリア、ブロンズ製の蝋燭立てが置かれている。そしてスベインやオランダの巨匠たちの作品が飾られている。エル・グレコ独特のあの暗い悲しいえんじ色のマントをはおった「枢機卿聖ヒエロニムス」や「十字架を担うキリスト」、ゴヤの「アルタミラ伯爵夫人と娘」、ベラスケスの「マリア・テレサの肖像」、ほかにレンブラントの肖像と、名品がずらりと並んでいる。
このレーマン・コレクションは見る人の立場、美術を愛する人の心を考えてつくられた空間であり、忙しい人たちにとって心のオアシスとなる場所である。出所:『美術館へ行こう』長谷川智恵子
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