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フィリップス・コレクション(アメリカ) 2009年8月6日更新
【和:フィリップス・コレクション】 |
【英:The Phillips Collection】 |
研究機関|>フィリップス・コレクション(アメリカ) |
ワシントンの中心街から少し外れた樹々の縁が美しい住宅地の一角に、フィリップス・コレクションの建物がある。赤煉瓦の二階建てで、全体に蔦がからんでおり歴史の重みを感じせる。
ダンカン・フィリップスは美術に造詣が深く、一九〇八年にエ-ル大学を卒業後、美術について講義をしたり、著書を出版し、絵画の収集も行った。祖父のジェームス・ラファリンが大きなスチール会社の創始者で経済的に恵まれていたことと、妻のマージョリーが画家であったこともあって、夫妻は協力してこのコレクションをつくっていった。
一九二一年には自宅の数部屋を一般公開し、フィリップス・コレクションはアメリカで最初の近代美術の美術館としてスタートした。その後、コレクションは急速に増えていき、一九三〇年には全館が美術館となった。一九六〇年には別館も造られ、二千点に及ぶコレクションを収蔵するに至った。ダンカン・フィリップスは一九六六年に亡くなるまで館長を務め、マージョリー夫人も夫の死後一九七二年に息子のラファリンが継ぐまでの間、その遺志を守って美術館を運営した。
個人コレクションだけに作品の選び方も特色があって面白い。ダンカン・フィリップスの著書によれば、彼の作品選択の基準は、"魔力""魔法""魅惑""輝き""神秘"が感じられる作品を選んだのだという。
玄関を入ると、暗い色の木造りで、椅子も当時のままである。暗いホールの左手の部屋には水色の壁にドーミエ五点、ドラクロアニ点、マネ、コロー、アングルらの小品が掛けられている。その奥には、モリゾーが掛けられ、ドガの「バーで練習する踊り子たち」は大作でオレンジ色の背景が美しい作品である。
ホールの右手の部屋には、カンディンスキーの「秋」やココシュカが数点あった。ここは薄い茶色のトーンの部屋である。その奥の部屋は、昔コンサートに使ったのであろうか、舞台らしい空間があって、オーク材のがっしりとした立派な部屋である。ここにはルオー五点、スーチンニ点、ジュアン・グリ、モンティセリなどがある。
二階へあがると、どの部屋も白っぽい壁にグレーの絨毯という簡素な造りである。初めの部屋には、サム・フランシス「ブルー」(一九五八)と並んで、岡田謙三の一九五四年の作品が二点、「#2」と「足跡」がある。廊下にはマージョリー夫人の作品が数点とモランディが二点飾られている。別館へは渡り廊下でつながっている。突き当たりには二十世紀初めのアメリカ美術があり、そこから階段でおりると、薄いグレーの壁、木の床にグレーの絨毯、古い椅子のある部屋に出る。この中央の部屋には、ゴヤ、ゴーギャン「静物」、ピカソ「青い部屋」(一九〇一)、ゴッホの晩年の作品三点、ルドン「神秘」などがある。
隣りの部屋は、セザンヌ四点、ルソー「ノートルダム」、コロー、ドーミエ、ドラクロア、クールベ三点、シャルダンらの作品がある。セザンヌは「水色の婦人」「自画像」「サント・ヴィクトワール山」(一八八六-八八)とどれも素晴らしい。反対側の部屋には、ヴュイヤールの小品、ドガ三点、ボナールの大作「テラス」、ルノワール、モネなどがある。
ドガの作品の中では、「浴後」の三十号が特に優れていると思う。続く部屋には、ボナールが十二点もある。脇の階段をおりると、ブラックの作品を十点掛けた部屋に出る。どれも名品揃いで楽しい。ルノワールの「船遊びをする人々の昼食」は十数人の男女が描かれた百号ぐらいの大作で、ダンカン・フィリップスが一九二三年に購入した記念すべき名品である。
さらに特筆すべき名品は、アングルの「浴女」である。裸婦のうしろ姿が光の中で輝いている。どの部屋も割に小さく、巨大な美術館とは違った静けさがあって心和む。古い作品はサイズも小さく、近年収集したものとのサイズの統一がとれていないことが、初めは美術館の構想ではなかったものが、後に一般公開された経緯を物語っている。出所:『美術館へ行こう』長谷川智恵子
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