ネルソン・アトキンス美術館(アメリカ)　2009年8月10日更新

　アメリカのミズーリ州カンサス・シティにネルソン・アトキンス美術館がある。ネルソンとアトキンスの寄贈によって美術館が建てられ、ここに開館したのは一九三三年である。アメリカではほとんどの美術館が、成功した人やお金持ちの"公共ヘの寄付"という形でつくられ、維持されてきている。
　ロダンの「考える人」の彫刻が置かれている正面玄関から入ると、ロビーは右の方が吹き抜けになっており、天井から自然光が射している。大理石の柱も重厚でヨーロッパ風の風格のある建物である。想像していたよりも遥かに大きな美術館である。
　古代からアフリカ、オセアニア、オリエント、アジア、ヨーロッパ、アメリカ現代美術までと幅広いコレクションが展示されている。ドイツ・フラマン地方ではルーカス・クラナッハ（父）、ルーベンス、ヴァン・ダイク。イタリアではヴェロネーゼ、カラバッジョ、ティツィアーノ、グァルディ、カナレット。フランスではニコラ・プーサン、クールベ。イギリスではターナー、ローレンス。スペインではムリーリョ、ゴヤ、スルバラン、エル・グレコ。……と、素晴らしい名品の数々を見ることができる。中でも、エル・グレコの作品「悔悟するマグダラのマリア」（一五八〇－八五頃）に描かれている女性の美しさは胸を打つ。
　また、フランス印象派と後期印象派にも名品があり、セザンヌ、ルノワール、モネ、ゴーギャン、ドガなどの作品を見ることができる。現代美術、アメリカ二十世紀美術も展示されており、その中でもラウシェンバーグの大作が素晴らしい。日本美術も収集されており、狩野探幽、葛飾北斎、酒井抱一、円山応挙、尾形光琳などがある。ほかに優れたものとして、鎌倉時代からの掛け軸、屏風、蒔絵の箱なども見つけることができる。中国美術には、貴重な唐三彩の像がたくさんある。中国の寺院の一部を模倣したものもあって、東洋的な雰囲気が漂い、まるで中国にいる気分になってしまう。庭に出ると、ヘンリー・ムアの彫刻が所々に置かれ、それぞれの空間を形作っている。ムアが「自分の彫刻は建物の内部ではなく、自然の中に置いてほしい一と言っていた言葉を思い出した。
　レストランは、吹き抜けがあり回廊形で、中央に噴水がある。植木が置かれ、古い館の中庭のようである。ビュッフェ形式の自由なムードがとてもよい。この美術館の案内書に『あなたのお孫さん、そして、そのまたお孫さんにもこの美術館を訪れてほしい。そのためにも、作品に触らないで下さい。ちょっと触っただけでは変化しませんが、長い時間の中で変化させてしまいます。よい状態で維持していくために協力して下さい。』と書くかれてあるのが印象深い。確かに、美術品は人類の永遠の遺産である。この姿勢が、いつの日か日本でも定着してほしいと思う。 出所：『美術館へ行こう』長谷川智恵子
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