八ンティントン美術館(アメリカ)　2009年8月13日更新

　ロサンジェルス郊外のサン・マリノに「ハンティントン図書館・美術館・植物園」がある。ヘンリー・エドワード・ハンティントンは一八五〇年、ニューヨークに生まれ、ニューヨークとカリフォルニアをつなぐ南太平洋ラインの鉄道事業で成功を収めた人である。このサン・マリノがすっかり気に入り、一九〇八年実業の第一線から退いたハンティントンは図書と美術品の収集に力を注ぐことになり、サン・マリノに建物を建て、収集した本や美術品を飾り一般に公開することにした。 　ハンティントンは一九二七年に没したが、彼の遺志を受けて、図書館、美術館、庭園を財団が管理、運営して今日に至っている。ロサンジェルスから車で五十分ほどでサン・マリノのハンティントン（図書館・美術館・植物園）のある公園に着く。
公園、それも広大な公園である。二五万坪という広さの中に十ニの庭園がある。椿のコレクションの庭、シェイクスピアの庭、ばら園、砂漠園、密林園、日本庭園などバラエティに富んでいる。そこに図書館と二つの美術館があり、図書館にはシェイクスピア戯曲集の最古版、羊皮紙に印刷されたグーテンベルグの聖書など、六十万冊に及ぶ蔵書、数百万点に及ぶ原稿、写本、写真などがある。蔵書量は、アメリカ最大のものといわれている。
　美術館はハンティントンの元邸宅がメイン・ギャラリーとなっており、十八世紀から十九世紀にかけての英国美術が主なコレクションで、同じく庭園内にスコット・ギャラリーが建てられている。
　まずメイン・ギャラリー「ハンティントン美術館」を見ることにする。まずターナーの「大運河、ベニスのシャイロック」（一八三七頃）が目をひく。ターナーはしばしば、文学や歴史上の出来事を絵にした。この絵の右手下部にシャイロック（『ベニスの商人』の中の人物）が描かれているが、ターナーは、『ベニスの商人』の名高いシーンをことさらに描くことにはあまり興味がないらしく、むしろ、シェイクスピアが演出した、雑踏と商売の盛んな町ベニスの雰囲気を画面に描き出している。そして、ロムニの「麦藁帽子をかぶったハミルトン夫人」、ゲインズボロー「伯爵夫人の肖像」「青い少年」（一七七〇頃）、「ボーフォア夫人の肖像」、コンスタブルの「ソールズベリー大聖堂」（一八二三）、ホップナーの「ゴザール家の子供達」（一七八九）がある。
　さらにロムニの「ハープを弾く娘」、レイノルズの「立ち話をする運命の女神」、小品だがコンスタブルの「画家の妹達、アンとマリー・コンスタブル」が際立っていた。
　フランス美術では、ブーシェの「ヴィーナスとキューピッド」（一七六九）、ジャック・ルイ・ダヴィッドの未完の「男の肖像」、フラゴナールの小品二点、ワトーの「田舎の踊り」、そして、レンブラントの「羽飾りの夫人」（一六三六）があったのには驚いてしまった。ヴァン・ダイクの「キルク夫人の肖像」（一六三八頃）と向かい合わせに飾られてあった。そしてターナーの「月光のもとで水浴するナポリの漁師の娘たち」（一八四○）がまぼろしのような美しさを誇示している。このレンブラント、ヴァン・ダイクなどは、一九七八年にグリーン夫人がこの美術館に寄贈した作品で、「アデル・グローウィング記念コレクション」と名付けられている。
　別棟のスコット・ギャラリーには、一七三〇年から一九三〇年のアメリカ絵画が年代を追って展示されている。アメリカの"美″の開拓史を追うのも面白い。出所：『美術館へ行こう』長谷川智恵子
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