尾関諒 「袖に月が昇る」スプラウト・キュレーション

尾関諒の絵画に、派手なスペクタクルはおろか、メッセージや自己省察的な物語性は見当たらない。しかし朧気に素っ気なく描かれた図像(モティーフ)の合間に広がる細部にひとたび目をやると、微細な色の粒子がオブジェクトとなって独特な質感の肌理を形成し、画面全体に豊かな抑揚をもたらしていると分かる。ストロークではなく、筆を転がす。油絵具の色の粒子にまた別の色の粒子を纏わせる技法を、慎重かつ愚直に進めることによって、潜在的な図であった地の前景化がなされるのだが、ここで立ち現れるのは東洋の思想と絵画が脈々と扱ってきた「空(くう)」と、そこに満ちる気配=アンビエントである。そして再び図像(モティーフ)について述べれば、それは気配を引き寄せる宿主、あるいは行間に召喚されたセンテンスのような役割とも言えようか。つまり、尾関が時折口にする「地のような図」と「図のような地」の意味するところとは、アンビエントを前景化した地と、朧気で素っ気ない図像は、距離や角度で互いの役割を入れ替え観る者を揺さぶる、それぞれがアクターであるということだろう。そして、制作過程で生じる偶発的な間合いのズレや、手順の不整合もほどよく引き連れつつ、その絵画は「ポエジー*」が沸き立つ時を静かに待っている。 尾関諒|Ryo OZEKI 1986年愛知県生まれ。2011年東京芸術大学大学院油画科卒業。2011–13年ドイツ・カールスルーエ造形美術大学在籍。ベルリンでの活動期間を経て2016年帰国後国内で活動。主な展覧会として、個展:2020年「海、メガネなど」スプラウト・キュレーション(東京)、2015年「Ryo Ozeki, Paintings」Herrenhaus Edenkoben(ドイツ)、グループ展:2022年「VOCA 2022」上野の森美術館(東京)、2021年「The Shark」ドイツ文化会館(東京)、2019年「KRONO.PLY」mumei(東京)、2018年「JPN_3」スプラウト・キュレーション(東京)、「In Hf」ドイツ文化会館(東京)など。

名称:尾関諒 「袖に月が昇る」スプラウト・キュレーション
会期:2022年3月18日(金)~2022年5月1日(日)
開館時間:13:00 〜 19:00 日曜日は17:00まで
休館日:月曜、火曜、水曜、祝日(4月29日は開廊)
入場料:無料
会場:スプラウト・キュレーション
住所:〒162-0812 東京都新宿区西五軒町5-1 エーワビル 3F
TEL:03-3642-5039
URL:スプラウト・キュレーション

尾関諒の絵画に、派手なスペクタクルはおろか、メッセージや自己省察的な物語性は見当たらない。しかし朧気に素っ気なく描かれた図像(モティーフ)の合間に広がる細部にひとたび目をやると、微細な色の粒子がオブジェクトとなって独特な質感の肌理を形成し、画面全体に豊かな抑揚をもたらしていると分かる。ストロークではなく、筆を転がす。油絵具の色の粒子にまた別の色の粒子を纏わせる技法を、慎重かつ愚直に進めることによって、潜在的な図であった地の前景化がなされるのだが、ここで立ち現れるのは東洋の思想と絵画が脈々と扱ってきた「空(くう)」と、そこに満ちる気配=アンビエントである。そして再び図像(モティーフ)について述べれば、それは気配を引き寄せる宿主、あるいは行間に召喚されたセンテンスのような役割とも言えようか。つまり、尾関が時折口にする「地のような図」と「図のような地」の意味するところとは、アンビエントを前景化した地と、朧気で素っ気ない図像は、距離や角度で互いの役割を入れ替え観る者を揺さぶる、それぞれがアクターであるということだろう。そして、制作過程で生じる偶発的な間合いのズレや、手順の不整合もほどよく引き連れつつ、その絵画は「ポエジー*」が沸き立つ時を静かに待っている。
尾関諒|Ryo OZEKI
1986年愛知県生まれ。2011年東京芸術大学大学院油画科卒業。2011–13年ドイツ・カールスルーエ造形美術大学在籍。ベルリンでの活動期間を経て2016年帰国後国内で活動。主な展覧会として、個展:2020年「海、メガネなど」スプラウト・キュレーション(東京)、2015年「Ryo Ozeki, Paintings」Herrenhaus Edenkoben(ドイツ)、グループ展:2022年「VOCA 2022」上野の森美術館(東京)、2021年「The Shark」ドイツ文化会館(東京)、2019年「KRONO.PLY」mumei(東京)、2018年「JPN_3」スプラウト・キュレーション(東京)、「In Hf」ドイツ文化会館(東京)など。

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