名称:「流転のなりゆき 武田竜真 福田惠 古堅太郎」カスヤの森現代美術館
会期:2023年9月2日(土)~2023年11月19日(日)
会場:カスヤの森現代美術館
時間:10:00~17:30 (最終入場時間 17:00)
休館日:月曜日 火曜日 水曜日
観覧料:一般 800円
学生 600円(小学生は400円)
住所:〒238-0032神奈川県横須賀市平作7-12-13
TEL:046-852-3030
URL:カスヤの森現代美術館
今から170年前、横須賀市の浦賀港に来航した黒船は、寄港した先々で日本の植物を採取し、アメリカに持ち帰っていました。その植物標本は、太平洋に隔てられた日本とアメリカ東北部の植物がよく似ている事実を証明し、約1万1000年前まで、シベリア東端とアラスカ西部が地続きで、しかも温暖な気候であったこと、さらに、そこに生えていた植物が、気候変動や大陸の移動により、両大陸に分布したことを示唆しました。
捕鯨の漁場や補給地としての価値が黒船を引き寄せ、植民地主義的な調査として採取された植物が、種の分布と変化、何万年もの大陸の移動と気候変動を証明したように、ものは移動し、流転することで自らの価値を変化させ、場所の記憶と想起に深く関わっていきます。
武田竜真、福田惠、古堅太郎は、それぞれ文化を継ぐ漆と土地を隔てる海、枯れない造花と消えてしまった空き地、平和記念公園とプロパガンダ建築のように、相反するものが流転し、その意味を変え、場所の記憶と想起に影響を与えていく様を物語ります。
漆の特性と歴史に着目する武田竜真は、大航海時代に多くの漆製品が日本からヨーロッパ諸国に輸出されたことから、国間を文化的に「継ぐ」存在として漆を作品に使用しています。また、船によって運ばれたことから、海が土地を隔てる壁でもあるが、遠い異国と繋がる道でもあると考えます。この数百年にわたり日本と多くの国々を文化的に繋げていた「漆」という素材を用いて、海が切り開いた近・現代社会 の根幹とも言える「モビリティ(移動性、流動性)」を、波が見せる一瞬の表情を切り取ることで提示します。
福田惠は、2004年にドイツの首都、ベルリンに移住し、急激な都市開発で消えていく空き地に造花を植え「永遠の庭(よそ者として、ベルリン)」を制作しました。東西ドイツ統合の齟齬と希望を同時に孕む2000年代のベルリンを背景に、大量の造花と共に、めまぐるしく変容する都市に介入する行為は、身体を通じて、塗り替えられていく記憶や歴史に向き合った記録でもあります。現在は失われてしまった風景としての「永遠の庭」は、枯れない造花と共に17年前の都市の記憶を鮮やかに想起させます。
古堅太郎は、広島の平和記念公園をデザインした建築家の丹下健三が、終戦の3年前に「大東亜建設記念営造計画」を課題とした競技設計で一等を獲得していたことに注目しました。実現されることのなかったこの競技案と平和記念公園のデザインの類似については多くの人が指摘していますが、特に興味深いのは、戦中のプロパガンダ建築と戦後の平和を象徴する建築が似ているという点です。「日本の帝国主義から入念に切り離された『平和』に戦中のプロガンダとの類似を見ることはできないだろうか?」と問う古堅は、上述した二作品のデザインに注目し、戦後の理想的な平和の中に持続される別の視点を探ろうと試みます。
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