名称:「川久保ジョイ Left is Right-45億年の庭と茹でガエルー」原爆の図丸木美術館
会期:2024年10月30日(水)~2025年3月23日(日)
会場:原爆の図 丸木美術館
時間:9:00〜17:00
12月~2月は、9:30〜16:30
休館日:月曜日(祝日にあたる場合は翌平日)
12月29日~1月3日
観覧料:一般 900円
中高生または18歳未満 600円
小学生 400円
60歳以上 800円
※比企・東松山在住者・チラシ持参は各通常料金100円割引、障がい者は半額
住所:〒355-0076埼玉県東松山市下唐子1401
TEL:0493-22-3266
URL:原爆の図丸木美術館
ロンドンを拠点に活動する現代美術家、川久保ジョイ(1979年、スペイン生まれ)は写真、映像、インスタレーションといった多岐に渡る実践を展開し、2014年頃からは、原子力発電所および原子力技術の利用に関する考察を巡る、フィールドリサーチを含めた一連の作品を発表してきました。本展では、川久保のこれまでの制作、および新作を含む作品群が、丸木美術館の大小の展示室と屋外の空間に展開されます。副題の一部である「45憶年の庭」とは、正に地球の年齢であり、そこから連想される人知を超えた時間軸が、本展を読み解くひとつのキーワードとなっています。
2011年の福島第一原発の事故以来、川久保は当地へ赴き、土の中にネガフィルムを埋め、ある一定の時間を置いた後、掘り返す、という実験を行ってきました。第一展示室に設置された10枚のポラロイドは、彼の繰り返したテストの一部であり、芸術的実践を通じて福島の大地に関与し続けた彼のコミットメントの記録でもあります。新作の映像作品《Slow Violencello》(2024年)は、青森県の六ケ所村を中心に撮影されました。森の中でチェロを弾く作家自身の姿が、16mmフィルムで撮影されています。環境問題の文脈で提起された「Slow Violence(緩慢な暴力)」という概念から着想された本作は、確実に進行しているが、認知されにくく対処も出来ない暴力というアイディアを巡りながら、本展の軸を形成しています。
鑑賞者はまた、映像作品に登場する様々な要素を展示室内で再発見することでしょう。映像内に登場する、スマホに表示された市場チャートは、台座の上に平置きされたウランの株価をモチーフとする新作の絵画とも呼応しています。「匂い」もまた媒体の一部である、と川久保はいいます。イギリス、日本の原子力施設周辺をはじめとした様々な土地で摘んだ植物から作家自身が抽出した、香りを放つエッセンシャルオイルが絵具には混ぜられており、絵画を構成する要素となっています。また、ネオン管を用いた作品は川久保の代表作のひとつですが、本展では屋内に数点、庭に1点が展示されます。展覧会のタイトルと響き合う「LEFT IS RIGHT」という文字 ーただし、左と右は逆になっていますー が展示室の壁面に点灯しています。自己言及性を有する川久保のネオン作品に、ジョセフ・コスースやブルース・ナウマンをはじめとする、コンセプチュアル・アートの系譜を見て取ることも可能でしょう。さらに作家が、原子力発電所の立地的な観点に見られる地政学的な問題 -すなわち、中央が周辺を搾取するという構造- を資本主義経済、および植民地主義のメカニズムに重ね、それらを指摘しつつ、さらに、ひっくり返すような象徴的なジェスチュアを重ねていることは、本展に多層的な構造を与えています。六ケ所村から持ち込まれた松ぼっくりは、新たな芽を出し、庭の一角で成長を続けています。展覧会を流れる様々な時間軸は、一人の人間の生より長い美術的実践の時間、それよりしばしば膨大である植物の時間、さらにウラン238の半減期でもある約45憶年、地球の年齢にも及びます。
本展の開催に際し、川久保と親交の深いオーストラリア人作家ガブリエラ・ハース氏によって、《アトミック・ボム・ローズ》というバラの品種が日本に持ち込まれ、挿し木で増やす試みが行われます。象徴性と示唆に富むこの行為は、しかしながら、罪悪感などみじんもなく、ただ成長を続ける植物に対し、善と悪という二項対立的構造を投影させ、一体何が正しく、何が正しくないといえるのか、といった第二の疑問を呈するようです。Left is Right ― 右と左は、西欧圏では、しばし正誤、あるいは善悪の象徴としても用いられる言葉です。英語ではさらに「right」は「真っ直ぐ」や「権利」を意味し、「left」は「残された」や「去った」という意味も持ちます。「Left is Right」とは一体何を意味するのでしょうか?本展タイトルに込められた川久保の哲学は、展示室内の作品群と多層的に響き合いながら、鑑賞者に問いかけ、その検証を求め、深く訴えかけています。
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