特別展「HBC北海道放送創立70周年記念 富野由悠季の世界」北海道立近代美術館

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名称:特別展「HBC北海道放送創立70周年記念 富野由悠季の世界」北海道立近代美術館
展覧会期:2021.11.17(水) – 2022.01.23(日)
開館時間:9:30 -17:00(入場は16:30まで)
月曜日(月曜日が祝日または振替休日のときは開館、翌火曜日は休館。)
観覧料:一般 1500(1300)円 高大生 1000(800)円
    小中生 700(500)円 未就学児無料(要保護者同伴)
    ※( )内は前売り料金
主催:HBC北海道放送、北海道新聞社
住所:〒060-0001 札幌市中央区北1条西17丁目
TEL:011-644-6881・FAX:011-644-6885
URL:北海道立近代美術館

『機動戦士ガンダム』©創通・サンライズ
『機動戦士ガンダム』©創通・サンライズ

私たちが「富野由悠季の世界」という展覧会を構想し、富野氏にその思いを伝えたのは2015年末のことでした。その一方、私たちは、実際に展覧会が可能かどうか、はなはだ心許なく、準備に少し時間がかかってしまいました。富野氏もいうように、「演出」という概念の展示は可能なのかどうか、ということです。皆さんご存じのように、富野氏はアニメーター出身ではないので、いわゆるアニメ的な絵を直接描いてきたわけではありません。

「宇宙船コックピット」(富野由悠季、1954年)©オフィス アイ
「宇宙船コックピット」(富野由悠季、1954年)©オフィス アイ
『The IDEON(伝説巨神イデオン)接触篇・発動篇』 イメージイラスト(富野由悠季)©サンライズ
『The IDEON(伝説巨神イデオン)接触篇・発動篇』 イメージイラスト(富野由悠季)©サンライズ

富野氏自身が多数描いてきたものといえば絵コンテがすぐに思い浮かびます。シナリオをもとに描かれる動画の設計図というべきそれには、富野氏の思考がそのまま描かれています。しかしテレビアニメの1エピソードにつき約100枚以上描かれる絵コンテは、すべてが残存しているわけではなく、素人目には読み解きが難しく、その特徴や妙味がどこにあるのか、一見しただけではわかり得ない物でした。もちろん、富野氏のことを知りたければアニメそのものを見ればよいのですが、それを美術展として成り立たせようとすれば、アニメ作品をいわば「因数分解」して、その要素を展示することになります。しかしそれらはたいてい、他のデザイナーやイラストレーター、アニメーターの方々の作品や資料です。演出という富野氏の仕事を展示で示す最も有効な方法はなんだろうか、企画チーム一同思考を巡らせました。

「宇宙船」(富野由悠季、1954年)©オフィス アイ
「宇宙船」(富野由悠季、1954年)©オフィス アイ

私たちの背中を力強く押してくれたものがあります。それは、富野氏自身が所蔵する膨大な作品資料です。いくつかの資料はすでに公に紹介されていますが、そのほとんどが未公開のものばかりで、中にはアニメ史研究にとり重要と思われる資料もありましたが、それ以上に驚かされたのが、富野氏の幼年期から青年期にかけての創作物でした。彼の創作の原点を知る上で、これほど貴重かつ重要な作品はありません。

「Gのレコンギスタ」 ©創通・サンライズ
「Gのレコンギスタ」 ©創通・サンライズ

その一方で、富野氏が総監督を務めたアニメ作品を数多く世に送り出したサンライズ、そして富野氏の初期の仕事の舞台となった東北新社、手塚プロダクションの多大なるご協力のもと、各社所蔵の貴重な資料を多数調査させていただく機会を得ました。美術展の準備のために油彩画や水彩画、素描などを調査する機会を持つことの多い私たちにとり、アニメ資料の調査は不慣れではありましたが、1つのアニメ作品制作でかくも数多くの絵が描かれ、いかに富野監督が指示を出し、手を加えりしたその軌跡を垣間見ることができました。

さて、『鉄腕アトム』から『ガンダム Gのレコンギスタ』までの55年間を総覧するのは、並大抵ではありません。幸い、本展には6つの美術館が開催に加わったので、各館の学芸員でアニメタイトルの担当を割り当てました。それぞれが、担当アニメの分析作業を進めつつ、全体の展覧会構成をどうするかについては幾度かの議論を重ねました。当初はアニメを年代順に紹介する構成としていたのですが、富野アニメを網羅的に見ている来場者の数はさほど多くないはずとの前提に立ち返り、全体を6つの大きなテーマでくくる方法に切り替えました。富野氏が何をテーマにしてきたかを作品ごとに抽出し、まとまりをつくっていったのです。そして中間制作物といわれるセル画、原画、そして設定資料、準備稿、初期稿などをなるだけ富野氏の演出意図に沿う形で厳選していき、映像との有機的なつながりを持たせるよう工夫しました。

富野氏は、メカニックやキャラクターにリアリティを与える未来世界や異世界を舞台に設定し、ロボットアニメでは常識とされてきた勧善懲悪的ストーリーを退けてシリアスな人間ドラマを描いてきました。幼き日の宇宙旅行への憧れと、「映画的なもの」への強いこだわりを胸に抱き続け、映像的な面白さを追求しながら、登場人物やメカのデザイン、声優や音楽の選定、主題歌の作詞、映像作品の小説化など実に広範囲に活動しながら、自らの描く作品世界に妥協なき態度で挑んできました。こうしたバイタリティあふれる様々な活動に本展がどこまで迫れたか、まだ答えは見えていないのですが、本展が、富野アニメの、そして富野由悠季という人物の比類なさに皆さんが触れる機会となることを心より願っています。

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