名称:中藤毅彦「エンター・ザ・ミラー」入江泰吉記念奈良市写真美術館
会期:2021.10.29(金)ー2021.12.26(日)
住所:〒630-8301奈良県奈良市高畑町600-1
TEL:0742-22-9811
URL:入江泰吉記念奈良市写真美術館
中藤毅彦が撮り続けるものは、モノクロームの都市スナップショット。ニューヨーク、ハバナ、上海、ロシア、パリ、東欧(ベルリン、プラハ、ブタペスト、ワルシャワ等)、香港、東京。四半世紀に渡って訪れた街で切り取られたハイコントラストで力強いトーンの作品群は見る者に強烈なエネルギーを感じさせる。中藤毅彦の写真世界を紹介。
これまで20数年の期間、世界の幾多の都市を彷徨し、街と人々が織りなす光景を撮り歩いて来た。と言っても、僕は事件や社会問題のドキュメンタリーを追う報道カメラマンという訳ではない。直感に身を任せて街に飛び込み、あくまでもパーソナルな視点でスナップしているに過ぎない。しかし、そうしたスナップ写真には、時として意味や説明を越えた得体の知れない力を感じる事がある。それは、リアルな現実を映し出しながらも、現実そのままではない「鏡の向こう側」の領域に踏み込んだ様な奇妙な感覚なのだ。偶然が大きく作用するスナップを積み重ねる事によって、知識や概念としての都市の姿とは異なる人々の魂、土地の持つ記憶、とでも称するべき「何か」が写るのだと思っている。
今回、展示する作品は、ニューヨーク、ハバナ、東欧、ロシア、上海、香港、パリ、東京の8つの地域の諸都市で継続的に撮影して来たストリートスナップを再構成したものである。
資本主義の象徴的都市であるニューヨーク、その喉元で長年対立を続けた現役社会主義国家、キューバの首都ハバナ。中央集権的な社会主義を維持しつつ現実的な開放路線を歩み、劇的な大発展を遂げた中国の魔都上海。大英帝国の植民地として長く栄え、中国返還後25年の時を経、民主化運動の大きな嵐が吹き荒れた香港。冷戦時代の東側の盟主の首都モスクワは混乱期を経た後、再び活気を呈し、かつて壁で冷たく隔てられていた東西ベルリンは、統一ドイツの首都として日々変貌している。ヨーロッパを代表する美しき都パリは、流入する移民で膨れ上がり、テロやデモの混乱を抱えつつコスモポリタンな大都市と化し、2024年のパリオリンピックに向けて歩み出した。そして、震災以降沈み込んでいた我が東京は、オリンピックという虚構の旗印の下に巨額の赤字を背負い、コロナ禍という予期せぬ災禍の只中で未だあがき続けている。
これら特定の都市を被写体に選んで、撮り続けて来たのは、この時代を捉える上で象徴的な場所に思えたからである。20世紀の壮大な実験とも言える社会主義の崩壊、その二項対立としての資本主義世界。ベルリンの壁崩壊に端を発し、1991年のソ連の自滅に至る社会主義体制の崩壊は、若き日の自分にとって世界観がひっくり返る様な衝撃的な出来事であった。ちょうど、その頃よりストリートスナップを撮り始め、その時々の世界情勢を下敷きに考えて、重要と感じる撮影地を常に選んで来た。世界の都市は常に大きなうねりの中で激動し、変化を続けている。
自分に出来る事は、今までも、またこれからも街路に身を置き、ひたすら歩き、出くわした人々や予期せぬ光景に対して、身体の反応するままのスナップを実践する事だけだ。展示空間の中で、これらの都市に流れる20数年の歳月の光が響き合い、鏡の向こうのもうひとつの世界がリアルに立ち上がって来るならば、作者としては望外の喜びである。
(中藤 毅彦)
[作家プロフィール]
中藤 毅彦(なかふじ・たけひこ)
1970 年東京生まれ。
早稲田大学第一文学部中退。東京ビジュアルアーツ写真学科卒業。
作家活動と共に東京•四谷三丁目にてギャラリー・ニエプスを運営。
都市のスナップショットを中心に作品を発表し続けている。
国内各地の他、東欧、ロシア、キューバ、中国、香港、パリ、ニューヨークなど世界各地を取材。
国内外にて個展、グループ展多数開催。
<写真賞受賞>
第29回東川賞特別作家賞受賞。
第24回林忠彦賞受賞。
<コレクション収蔵>
清里フォトアートミュージアム
東京都写真美術館
周南市美術博物館
<主な出版物>
「Enter the mirror」モール刊 1997年
「Winterlicht」ワイズ出版刊 2001年
「Night Crawler 1995&2010」禪フォトギャラリー刊 2011年
「Sakuan, Matapaan – Hokkaido」禪フォトギャラリー刊 2013年
「Paris」FUNNY BONES EDITION刊(フランス) 2013年
「NODE」 (共著) NODE制作委員会刊 2013年
「STREET RAMBLER」ギャラリー・ニエプス刊 2014年
「White Noise」禪フォトギャラリー刊 2018年
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