上竹真菜美「過ぎ去っても終わっていない《Vorbei ist nicht vorüber》」LOAF- Laboratory of Art and Form

上竹真菜美「過ぎ去っても終わっていない《Vorbei ist nicht vorüber》」LOAF- Laboratory of Art and Form

名称:上竹真菜美「過ぎ去っても終わっていない《Vorbei ist nicht vorüber》」LOAF- Laboratory of Art and Form
会期:2023年03月11日(土) 〜 2023年03月26日(日)
会場:LOAF- Laboratory of Art and Form
時間:【金・土・日】14:00~19:00
   【水・木】予約制
休館日:月・火曜日
料金:無料
住所:〒602-8034 京都府京都市上京区米屋町286-13
URL:LOAF- Laboratory of Art and Form

写真・映像を用いたインスタレーションを手掛けるアーティスト・上竹真菜美の個展です。今回は、ドイツの国家社会主義時代(ナチス政権下)に犠牲となった人々を示す「躓きの石」をベルリン市内各所に訪ねたプロジェクトの成果を、展覧会の形で発表します。
この30年間で、ベルリンの76地区に9,512個の躓きの石が設置された(2022年6月時点)。それぞれの石が、ドイツの国家社会主義時代に迫害され、追放され、殺害された人々の生と死を記念している。犠牲者がかつて暮らしていた家の前に設置された10センチ四方のコンクリートの石には、真鍮製のプレートが貼り付けられており、このプレートを見れば犠牲者の名前や生年月日、死亡日を知ることができる。
上竹真菜美は本プロジェクト《Vorbei ist nichtvorüber(過ぎ去っても終わっていない)》にて、犠牲者たちの旧居住地40箇所を訪ね、その場の躓きの石を写真に記録した。
2022年2月5日から2022年3月16日まで、上竹は毎日異なる場所を訪れている。写真に写っている躓きの石に刻まれた犠牲者の死亡日は、上竹がその石を訪問し、犠牲者を追悼した日付と一致している。上竹はそれぞれの石に自らの手で触れ、プレートを磨き、その様子を写真に収めた。この行為によって、上竹は自らと犠牲者の間に繋がりを生みだそうとした。
さらに、上竹は殺された人々の情報を集め、彼らの人生を鑑賞者に共有する。躓きの石に刻まれた人生は、このプロセスを通じて、それぞれ個別のものとして浮かび上がってくる。
また、この一連の写真には、躓きの石に刻まれた人々が殺害された日の、その場所の正確な天体図が添えられている。上竹はこのアプローチによって、どこまで公的な記憶の文化を拡張していけるかを探る。それは、犠牲者たちがそれぞれ一人の人間であったことのみならず、彼らに起こった悲劇的な出来事は普遍的に起こりうることだと鑑賞者に伝えるためだろう。
40人の犠牲者の死亡日を記念することで、過去と現在の絡み合いを指摘する。映像の中で、犠牲者それぞれの人間性や人生について触れる。このような行為によって、名前や日付を表面的になぞるだけの、硬直した、情報だけを見る記憶の文化から離れることができるのだ。他者に対するエンパシーを持ち、過去から学んだことを現在の戦争や対立を考える際に役立てようとすることが、今の記憶の文化に良い影響をもたらすかもしれない。これは、ヨーロッパで新たに勃発した紛争のみならず、世界中の対立について考える上で、特に大事なことだと思われる。
本プロジェクトの《Vorbei ist nicht vorüber(過ぎ去っても終わっていない)》というタイトルは、ブルガリア系ユダヤ人作家のエリアス・カネッティ(1905~1994年)からの引用だ。文化・文学研究者のアライダ・アスマンは、2013年に出版した、ドイツにおける記憶の文化を考察するエッセイのタイトルにこの言葉を採用している。アスマンの考察は本プロジェクトの重要な出発点となっており、ここから上竹のアプローチや、歴史や記憶に対する態度をうかがい知ることができるだろう。(メタ・マリナ・ベーク)
上竹真菜美
2018年、東京藝術大学大学院美術研究科修了。在学中にロンドン芸術大学チェルシーカレッジに交換留学。2021〜2022年、ポーラ美術振興財団在外研修員としてクンストラーハウス・ベタニエン(ドイツ)に滞在。現在は東京を拠点に国内外に活動の場を広げる。
主な展覧会に、「Vorbeiist nicht vorüber」(クンストラーハウス・ベタニエン、ベルリン、2022)「Imagining Something Unknown」(デカメロン、東京、2022)などがある。

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