「さとびとみやび 失われた理想郷を求めて」平塚市美術館

「さとびとみやび 失われた理想郷を求めて」平塚市美術館

名称:「さとびとみやび 失われた理想郷を求めて」平塚市美術館
会期:2023年6月24日(土曜日)~9月3日(日曜日)
会場:平塚市美術館
時間:9:30~17:00 (最終入場時間 16:30)
休館日:月曜日、7月19日(火)
   ※ただし、7月18日(月・祝)は開館
観覧料:一般 200円(140円)
   高大生 100円(70円)
   ※( )内は団体料金
   ※中学生以下、毎週土曜日の高校生は無料
   ※各種障がい者手帳をお持ちの方と付添1名は無料
   ※65歳以上で平塚市民の方は無料、市外在住の方は団体料金
住所:〒254-0073神奈川県平塚市西八幡1-3-3
TEL:0463-35-2111
URL:平塚市美術館

「さとびとみやび 失われた理想郷を求めて」平塚市美術館
「さとびとみやび 失われた理想郷を求めて」平塚市美術館
ミニオ=パルウエルロ 保田,シルヴィア《樹下に遊ぶ幼
ミニオ=パルウエルロ 保田,シルヴィア《樹下に遊ぶ幼

本展は、作家たちが都市と地方を行き来するなかで生み出された作品群を紹介するものです。平塚市美術館が位置する湘南地方は明治期以降に開発が進み、都市にほど近い周辺地として、都市生活者の療養地、避暑地となりました。その海岸の美しいイメージに誘われ、芸術家たちはこぞってアトリエを構えましたが、彼らの多くは、都市の不安や騒がしさに満ちた生活から逃れようとした移住者でした。萬鉄五郎や岸田劉生を初めとする、大正・昭和初期に湘南で創作した春陽会の画家たちは、都市から地方へ、地方から都市へと移動するなかで、都市では失われつつある原風景を湘南の地に見出し、絵画のなかに表現することになります。
このような都市から地方へと注がれる眼差しは古代から存在し、近代以降、ここではないどこか、失われた原風景を求めて、作家たちは理想的な生活の在り方を国内の周辺地や、植民地支配地域に見出しました。大正期に河野通勢は故郷・長野の風景に神話の世界を見出し、濱谷浩は新潟・桑取谷の習俗を取材し、日本の原型を作品集『雪国』(1956年)、『裏日本』(1957年)に発表するなど、周辺的な世界をとらえる作家たちは、失われつつある風景を様々な方法で表現していることがわかります。1913年から国家プロジェクトとして台湾の先住民族へのフィールドワークをはじめた民俗学者・小林保祥は、調査終了後、公的な役割から離れ絵画制作を始め、ユートピアとしての集落を絵画で表現しました。彼らにとって、無垢な風景の追求が創作行為の根幹をなしていると言えるでしょう。
最後に紹介するのは、人間が取り戻すべき原風景を表現し続けた、平塚市を拠点とする造形作家・藤田昭子の作品群です。藤田は戦後すぐに彫刻界で頭角を現しましたが、1970年代に入ると、「野焼き」と呼ばれる窯を使わずに野外で粘土を焼成する制作方法で、湘南の地に世界最大級のやきもの《出縄》(1976-77年)を出現させました。「人間らしい空間」の創造をかかげた藤田による集団での創作行為には、人間を疎外する都市生活に抗い、原始的な建築や共同体を生み出そうとする一貫した意思をみてとることができます。
地方に住まうことへの関心が高まり、その価値が見直されている現在、本展が都市から地方へと注がれる眼差しについて再考する機会になれば幸いです。

濱谷浩《雲と波と雪と家》(「裏日本」より)1955年、平塚市美術館蔵
濱谷浩《雲と波と雪と家》(「裏日本」より)1955年、平塚市美術館蔵
大沢昌助《廃墟と静物》1949年、平塚市美術館蔵
大沢昌助《廃墟と静物》1949年、平塚市美術館蔵
小林保祥《高砂族の生活》1940-45年、平塚市美術館蔵
小林保祥《高砂族の生活》1940-45年、平塚市美術館蔵

関連記事

コメント

  • トラックバックは利用できません。

  • コメント (0)

  1. この記事へのコメントはありません。

ピックアップ記事

  1. 「倉敷のやきもの―民藝の風吹きて―」きび美ミュージアム
  2. 「土が開いた現代 革新するやきもの」和歌山県立近代美術館
  3. 「殿さまのスケッチブック」永青文庫
ページ上部へ戻る